北朝鮮が今年5月に採択した「鉄道旅客輸送法」の全文を、韓国デイリーNKが入手した。条文によると、北朝鮮国民は列車に乗車する際、身分証にあたる「公民証(市民証)」と「旅行証明書」を携行しなければならず、これを所持していない場合、乗車が認められない。また、列車に乗らず見送りや出迎えなどの目的で駅構内に入る際にも、別途「入場券」の購入が義務づけられている。
同法第27条は「旅客列車で旅行しようとする者は必要な証明書を携行しなければならない。証明書がない場合は旅客列車を利用できない」と定めており、違反者には第38条に基づき罰金が科される。さらに第19条、第29条では、駅構内に立ち入るためには入場券が必要で、退場時には案内員に返納しなければならないと明記されている。これらの規定は、鉄道施設への出入りを厳格に管理し、無断乗車を防止する狙いがあるとみられる。
統一研究院の金泰元(キム・テウォン)研究委員は「旅行証明書なしで列車に乗ることを禁じる規定は、国家内部の自由な移動を事実上遮断するもの」と指摘。「自由権規約第12条や世界人権宣言第13条が保障する『移動の自由』を正面から侵害している」と批判した。同氏によれば、北朝鮮の制度は合理的目的や比例性を欠いた「包括的統制手段」にあたるという。
また同法は、住民や労働者に対し「鉄道旅行秩序を自覚的に守るための法的教養活動」を義務づけている(第26条)。加えて第32条では、切符の偽造、走行中の列車への飛び乗り、定められた荷物制限の超過、列車内での飲酒・宴会、社会主義的生活様式に反する服装や「わが式でない」歌や踊りなど、十項目にわたる禁止行為を列挙している。
(参考記事:通勤列車が吹き飛び3000人死亡…北朝鮮「鉄道事故」の凄惨な現場)
違反者に対しては民事・刑事の段階的処罰規定が設けられ、特に切符の違法販売や偽造、走行中の列車妨害などを繰り返した場合、3か月以下の無報酬労働・労働教養処罰、重い場合は3か月以上の強制労働に処される(第40条)。
金研究委員は「これらは刑事裁判なしに行政的処罰を科す仕組みで、国際労働機関(ILO)の強制労働条約第29号や自由権規約第8条に明確に抵触する」と批判。「本法は移動の自由制限に加え、表現の自由、公正な裁判を受ける権利の侵害要素をも内包している」と警鐘を鳴らした。
