北朝鮮が今年、一般住民の自家用車所有を公式に許可した。しかし、その実態は表面的な改革に過ぎず、「人民の利便」どころか、権力者の特権をさらに際立たせる制度となっている。なぜなら、ベンツやレクサスなどの高級輸入車は、金正恩総書記と高位級幹部専用とされ、一般住民はもちろん新興富裕層さえも手に入れることができないからだ。韓国のシンクタンク「サンド研究所」傘下のメディア「サンドタイムズ」が報じた。
金正恩総書記は最近、プーチン大統領から贈られたロシア版ロールス・ロイスとも言われるアウルス・セナートで公式行事に出向くこと多い。一方、「元帥様(金正恩氏)が、夜中にこっそり専用ベンツに乗って平壌市内をドライブしている」という噂が広がったことがある。
(参考記事:金正恩氏の「高級ベンツ」を追い越した北朝鮮軍人の悲惨な末路)北朝鮮では車の種類がそのまま身分の象徴だ。中央党書記や道党責任書記級はベンツ280型、道党組織書記や中央党副部長級は230型、中央党指導員程度でも180型に乗るのが一般的とされる。地方でベンツ280が道路に現れれば、「道党委員長が移動中」と誰もがわかるほどで、車両自体が政治的ランクの証明書なのだ。しかもその多くは10年以上の旧型でありながら、それでも権力の象徴として祭り上げられる。
北朝鮮が高級車をドイツ製ベンツに限定する理由も皮肉だ。日本車やアメリカ車は「敵国製品」として禁止される一方、ドイツ製は政治的摩擦が少なく部品供給も容易というだけである。人民は飢えに苦しむ一方で、1台10万ドルに及ぶベンツが輸入され、幹部の権力誇示に用いられる。
この「車両階級制」は、表向きは自家用車所有の自由を演出しつつ、内部不満を抑え、幹部の特権を温存する巧妙な制度だ。民法で認められた個人財産も、実際に車を購入できるのはごく一部の幹部や貿易関係者、海外送金がある家庭に限られる。庶民には、車を持つ夢すら遠い幻想である。
結局、北朝鮮の自家用車政策とは、人民に見せる「改革ショー」であり、権力者の豪遊と格差を隠すための政治的道具に過ぎない。飢えに苦しむ人民の横で、幹部たちはベンツのハンドルを握り、特権の象徴として誇示する。皮肉にも、金正恩体制の「進歩」は人民の生活改善とは無関係に、車輪の上で回り続けるのだ。
