春の招募(新兵の入隊)は、北朝鮮の詐欺師の稼ぎ時だ。
北朝鮮は、1万人から1万2000人の兵士をロシアに派遣した。ウクライナとの最前線であるクルスク州に送り込まれた兵士の死傷率は極めて高い。噂でそれを知った若者や親たちは、眠れぬ夜を過ごしている。
(参考記事:北朝鮮兵士の間で「遺書」作成が流行…遺族の保険がわりに)だが、招募生(新兵)やその親にとっては、それ以前に大きな心配事があり、それに付け込んだ詐欺が横行していると、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じている。
咸鏡南道(ハムギョンナムド)の情報筋によると、先月26日に咸興(ハムン)市内の通りに多くの人々が集まった。いずれも「息子の問題を解決してやる」と持ちかけられ、言われるがままに200ドル(約3万円)を支払った親たちで、「被害者の会」の集会のようなものだ。
軍事動員部の周辺では、「あんたの息子が124部隊に配属されないようになんとかしてやる」と持ちかけられ、カネをだまし取られる人が増えている。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面両江道(リャンガンド)の軍関係の情報筋の話によると、この124部隊とは、昨年2月8日の建軍節(朝鮮人民軍創建記念日)に国防省を訪れた金正恩総書記が、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)陸軍の各軍団の部隊に、緊急で立ち上げることを命じた部隊だ。
金正恩氏は、20の市・郡に地方工業工場を建設する「地方発展20×10政策」を進めているが、この建設に動員されるのが124部隊だ。すべての市・郡に工場を建設するには、さらに9年かかると見られ、今年の春に入隊した新兵は、10年もの兵役の間、ずっとつらい建設工事をやらされる。
(参考記事:【再現ルポ】北朝鮮、橋崩壊で「500人死亡」現場の地獄絵図)朝鮮人民軍にはもともと建設部隊が存在するが、124部隊には最もつらい仕事が押し付けられ、工期までに必ず完成させることを求められる。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面決められた工期までに何がなんでも建設を進め、前倒しで完成させればなお良いとする風潮のことを「速度戦」と呼ぶ。もともとは旧ソ連で増産運動として始まり、共産圏各国に広がったものだが、量とスピードばかり重視して質が度外視されるという弊害が生じ、次第に行われなくなった。それを2022年の今に至るまで続けているのが、北朝鮮だ。
その結果が、死亡事故の多発だ。
1989年4月には、平壌開城高速道路の建設現場で橋が崩落し、あっという間に500人以上が死亡。現場の川原には無残な死体が散乱し、見るに耐えない光景が広がったという。また、2013年10月には、国防委員会の庁舎新築の工事現場で崩壊事故が発生し、80人が死亡。さらに、2014年11月には、完成したばかりの平壌市内の23階建てマンションが突然崩壊し、500人が犠牲となった。
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戦場並みに死者、負傷者が多発する建設部隊に息子を生かせたくないというのが親心だが、それにつけ込んで詐欺を働く連中が多数存在するのだ。