北朝鮮の平安北道(ピョンアンブクト)カンウン里は、近隣の西湖里(ソホリ)、於赤里(オジョンリ)などと合わせ、7月末の大水害で深刻な被害を受けた地域として、朝鮮労働党機関紙・労働新聞に取り上げられた。
村には復旧作業のため、数多くの突撃隊員(半強制の建設ボランティア)が入っているが、ありがたがられるどころか、村人との間で深刻なトラブルとなり、ついには喧嘩へと発展した。原因は一体何だったのか。現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
平安北道の朝鮮労働党員からなる突撃隊は、洪水で家を失った人々に提供する1000戸もの住宅の建設を命じられた。彼らは、建設に必要な泥を集めていたのだが、山の急な斜面で問題が起きた。そこには多数のトゥエギバッ、つまり個人が耕している畑があったのだ。
北朝鮮の地方では、協同農場ではなく、個人が野菜の栽培を行うのが一般的だ。収穫は主に自家消費用で、余った分は市場で販売して現金を得る。その場所は自宅の裏だったり、遠く離れた山奥だったりするのだが、この地域の場合は、村の裏山だったわけだ。突撃隊は、その裏山の斜面と畑を切り崩して泥を採取しようとしたものだから、住民が激怒するのも当然だ。
「住民は最初、どうするのかなと見守っていたが、突撃隊がどんどん泥を掘り進め、畑のところに差し掛かるや、激怒した」(情報筋)
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トゥエギバッは、国に正式に認められた畑ではないが、地域の食糧供給を担う重要な農地だ。しかし、山の至る所を無秩序に切り開いて作った畑だけあり、国の政策とぶつかって問題になることがしばしばある。
ただでさえ食糧の足りない中で、貴重な畑を壊されてはたまったものではない。当局は「災害復旧時に畑の被害を最少化せよ」との指示を下しており、これを前面に掲げている。さらに、突撃隊が無理に泥を採取すれば、地盤が弱くなり、今後の大雨で山崩れのリスクがさらに増していると主張している。
住民は突撃隊に対し、「斜面をそんなに掘り進めたら、少し雨が降るだけで崩れてしまう、それがあなたがたの目には見えないのか」と強く抗議した。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面これに対し突撃隊は、「わからなくはないが、ならばどこから泥を取ればいいのか」と応酬した。程度の深刻さはわからないが、ついには喧嘩になってしまった。
(参考記事:北朝鮮「将軍様の誕生日」に大乱闘事件…核実験場近くの工場で)突撃隊指揮官が間に割って入り、「山崩れ防止のための補強工事を行う」と約束したものの、住民の不満と不安は収まっていない。「斜面を崩した上で補強したとしても、そんなことで山崩れは防げるのか」というものだ。
突撃隊はさらに踏み込んで、現場にある住宅を壊して泥を採取し、後から建て直すと言い出した。目に見える結果だけにこだわる突撃隊のやり方に、住民の不満は高まる一方で、再び双方の衝突が憂慮される。
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突撃隊も復興住宅の建設に必死になっているのだろう。義州郡は金正恩総書記が視察を行った場であり、他の被災地よりさらに完璧な復興が求められる。できなければ、責任者の処罰は免れない。そのためなら、他のものを犠牲にしても仕方がないと考えるのは、北朝鮮ではよくあることだ。
金正恩氏に「立派に復興できた」と報告することが最も大切なのであって、本当の意味で住民生活が復興することなど、眼中にないのだ。