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北朝鮮の金正恩総書記は、今年1月の朝鮮労働党中央委員会第8期第19回政治局拡大会議で「地方発展20×10政策」を打ち出した。首都・平壌への偏重が著しい投資を地方にも広げて経済の発展を図り、地方の人々の生活を向上させるという政策だ。「20✕10」とは、毎年20の市や郡に現代的な工場を建設し、10年以内に経済を活性化させることを意味している。

各地の市や郡がそのモデルケースに選定され、金正恩氏がプロジェクトの推進状況を視察するために訪れることもあるが、現地の幹部にとって、彼の訪問はありがたくないことのようだ。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

両江道(リャンガンド)の幹部によると、両江道人民委員会(道庁)のチェ・ソンホ地方工業部計画課長と指導員2人が先月19日、電撃逮捕された。

チェ課長は先月15日の故金日成主席の生誕記念日に、自宅に部下を招いて宴会を開いた。それが運の尽きだった。酒に酔ったチェ課長は、こんな話をしてしまった。

「両江道地方発展推進委員会が金亨稷(キムヒョンジク)郡を地方発展のモデルケースに選定した理由は、元帥様(金正恩氏)が現地視察をするのが難しい場所にあるからなのだ」

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金亨稷郡は、両江道の中心都市恵山から90キロも離れていて、そこに向かう道路は中国との国境沿いにある。故金日成氏や故金正日総書記は、中国側から丸見えだとの理由で、金氏一家だけが利用を許されたワンドク駅を3回も移転させ、恵山と三池淵を結ぶ1号道路も、国境から離れた地域に整備させた。

海外メディアや情報機関の関係者の接近が可能な中国側から、最高指導者の動向が丸見えの道路を通るのは極めて好ましくないと北朝鮮は考える。

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チェ課長らはこのことを逆利用した。つまり、国境沿いの道を通らざるを得ないルートでの視察を金正恩氏は行わないであろうと考えて、あえて金亨稷郡を選定したということだ。理由はそればかりではない。

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「金亨稷郡に通じる恵山・満浦(マンポ)間の北部鉄路は、地層の変化により毎年トンネルが崩壊する事故が相次いでいる。事故のリスクが高いため、金正恩氏の専用列車もこの路線は絶対に使用しない」(情報筋)

チェ課長が逮捕された件は、現地の司法機関関係者も確認している。金正恩氏がわざと視察に来られないように金亨稷郡を地方発展のモデルケースに選んだことに加え、金正恩氏は人命を軽視しているとの発言を行った容疑で、両江道保衛局(秘密警察)に逮捕された。また、指導員2人はチェ課長の発言に同意したため、逮捕された。

この計画課の職員は全員で6人しかいないが、そこに保衛局のスパイがいて、宴会での発言を密告したことに、両江道の幹部も一般住民も驚愕している。

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彼らの最終的な処分は明らかにされていないが、極刑は免れないものと思われる。

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さて、チェ課長はなぜ金正恩氏が来ないようなところを選んだのか。

「もし、金正恩氏が完成した地方工業工場を視察中に問題点を叱責したら、建設を担当した幹部の命が危うくなる。そんな恐怖に駆られ、視察の難しい金亨稷郡をモデルケースに指定したというのが課長の発言の趣旨だった」(司法関係者)

また、地方発展推進委員会の幹部も保衛局に呼び出され取り調べを受ける羽目になった。

「かつては金日成主席や金正日総書記の覚えがめでたくなるように、幹部たちは忠誠競争を繰り広げたものだ。しかし、今では金正恩氏の目に止まらないようにするため、できるだけ仕事をせず、死んだように静かに暮らすのが幹部のやり方だ」(司法関係者)

北朝鮮では、よかれと思ってやったことが、文字通りの命取りになることはしばしばある。これでは何もしない方がマシと考える無気力な幹部が増えるのも当然のことだろう。

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