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「空車回送は絶対に許さない」

積荷を降ろして何も積んでいない状態で戻るトラックを「回送車」と呼ぶ。燃料や人件費が無駄になるため、いかにそのような状態をなくして効率的な運行をするかが大切だ。

ガソリン不足に苦しめられる北朝鮮では、国が空車回送の取り締まりに乗り出した。ところが、それがドライバーのサボタージュを招いている。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

北朝鮮の社会安全省(警察庁)は、3月を「空車取り締まり月間」と定め、かつて存在していた「空車監督隊」復活させたと両江道(リャンガンド)の幹部が伝えた。

市や郡の安全部(警察署)に置かれた空車監督隊だが、1980年代後半から1990年代半ばまで、各道の安全局(県警本部)の交通課にあった部隊で、未曾有の大飢饉「苦難の行軍」のころに廃止されてしまった。社会安全省は2月24日、3月の1カ月に限ってこの部署を復活させるとの布告を下した。

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この幹部は、空車取り締まりは時折行われてきたが、空車監督隊を復活させたのは珍しいとし、農村生活住宅建設や地方工業工場建設など全国的に物資の輸送が増えたため、一時的に取り締まりを行うことにしたようだと述べている。

「毎年1月から2月は新年最初の戦闘課題である堆肥(畑の肥料として使う人糞)と冬の薪を運ぶため、工場や企業所のトラックは休む暇もないほど忙しいが、3月は各種建設工事など国レベルではトラックの需要が多いが、これといった工場や企業所レベルでは積荷がない時期」(幹部)

国全体では不足している物資の輸送を、工場、企業所のトラックに負担させるために、空車の取り締まりを始めたということだ。つまり、空車回送するのではなく、国が行う建設工事の資材を積んでいけということだ。

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ところが、これが問題を引き起こしている。積み荷はなくとも、重要なものを積んでいるからだ。

現地の別の情報筋は、保衛部(秘密警察)が市や郡の境界線上に設置した10号哨所(検問所)に、空車監督隊が期間限定で常駐して、昼夜分かたず出入りする車を監視していると伝え、こう述べた。

「最近はソビ車を捕まえるのも難しい」

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ソビ車とは、ドライバーが現金を受け取って人や物を運ぶもので、公共交通機関が貧弱な北朝鮮では非常に重要な交通手段だ。市や郡の境界線を越えるには、旅行証という国内用パスポートの提示が求められるが、ソビ車の中には10号哨所の係官と結託し、定期的にワイロを渡して、フリーパスで行き来できることをアピールするドライバーもいた。

北朝鮮では個人の車両の所有が認められていないが、ドライバーは自分の車を工場、企業所、機関所属ということにしてもらい、名義を借りて運行している。

(参考記事:北朝鮮の「検問所」が「料金所」に変身した裏事情

ところが、空車監督隊は、現金を受け取って他人を乗せる行為も取り締まりの対象にしているのだ。違反者の車を没収する権限も持っているため、ドライバーに恐れられている。

農村に向かう車は無条件で農村住宅建設に必要な砂と砂利を積んで、都市に来る車には無条件で学校で使うの薪を積めという空車監督隊の要求には無理があると情報筋は語る。

ドライバーは、運行に必要なガソリンを自腹を切って調達し、人や物を運んて運賃、送料を受け取って生活している。空車監督隊の要求に従えば、ガソリンを無駄に使うだけになる。だからといって命令に逆らうわけにもいかない。

彼らの出した答えはサボタージュだ。

「ガソリンを供給しないくせに、無闇矢鱈に空車回送を取り締まるので、ドライバーは車が故障したと言い張って、工場や企業所に必要な物資の輸送を拒否している」(情報筋)

北朝鮮政府は、自分たちの認めたもの以外は存在しないという姿勢を取る。例えば、国営の工場、企業所、国の機関に勤めず、商売を専業にしている人を無職扱いするのがその例だ。

ソビ車も北朝鮮の公共交通、商品流通に大きな役割を果たしているが、あくまでも地下経済の扱いなので、存在しないとみなす。しかし、厳然と存在しているため、それを無視した政策を出せば現実と衝突する。北朝鮮の硬直性を示す一つの事例だ。

(参考記事:市民の農場を急襲、作物を奪う北朝鮮警察「強盗の論理」