人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

トウモロコシは、16世紀に明から朝鮮に持ち込まれ、主に平安北道(ピョンアンブクト)や平安南道(ピョンアンナムド)の内陸部、江原道(カンウォンド)で栽培されていた。2007年に故金正日総書記が栽培を推奨してからは、さらに大々的に栽培されるようになった。

品種改良は行われているものの、日本のもののように甘い味がするわけではなく、コメに混ぜて粥にしたり、粉にして麺などにして食べる。そのままでは食べられないほど不味いものということだ。

そんなトウモロコシを配給として受け取った保衛員(秘密警察)は、権力を振りかざして庶民に押し付け、強制的にコメに交換させている。江原道(カンウォンド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

道内の一部の郡の農場では、保衛員がやってきて、3カ月分の食糧配給としてトウモロコシを、コメと1対1で交換させる事例が起きている。洗浦(セポ)農場のある分組長は、地域担当の保衛員から「交換してもらえないか」と頼まれ、50キロのトウモロコシをコメと交換することを余儀なくされたという。

トウモロコシとコメは2倍の価格差があるにもかかわらず、なぜこんな無茶苦茶な要求を聞いてやらなければいけないのか。それは、金正恩政治の恐怖政治を支える保衛員の権力が絶大だからだ。

人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

地域担当の保衛員は農場の幹部や農民を監視するだけにとどまらず、作業班長、分組長の任命にもある程度影響力を行使できる立場にある。

例えば、作業班長に推薦された人でも、保衛員からの評価が悪ければ任命されない、保衛員の不評を買えば、農場幹部本人の出世のみならず、子どもの将来にも悪影響を与えかねないとして、できるかぎり保衛員からの頼みは聞き入れる、といった具合だ。

いくら保衛員とて、山奥の村の担当ならば決していい生活ができるわけではない。とはいえ、3カ月分のトウモロコシの配給はこの地域では恵まれている方だ。農民は毎日農作業を続けても、せいぜい得られるのは1年に1〜2カ月分のコメくらいだ。半ば強制的にコメを奪い取られれば、自分の手で作ったコメが全く食べられなくなる。国から地方政府、軍、保衛部に至るまで、農民に群がって骨までしゃぶり尽くすのだ。

人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

そんな状況にあっても農民は不満ひとつ口にできない。農場のどこに情報員(スパイ)が潜んでいるかわからず、口を滑らせてそれが保衛員の耳に入りでもすれば、どうなるかわからないからだ。

(参考記事:男たちは真夜中に一家を襲った…北朝鮮の「収容所送り」はこうして行われる

保衛部も地域のこのような権力関係を利用することを考えているのか、保衛員への配給はすべてトウモロコシで行うようになった。わざわざコメを調達して配給しなくとも、保衛員が勝手にコメを「調達」するからだ。

かくして、北朝鮮の農民は永遠に貧困から逃れられなくなる。

人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

「わが国(北朝鮮)は農村と言えども、権力さえあれば住民の懐からいくらでも奪うことができるが、農場員はいくら苦労してもあちこちから搾取されるので、一生貧困から抜け出せない。トウモロコシとコメの価格差は2倍もあるのに、汗など全くかいていない保衛員は、たったひと言でコメを奪っていく」(情報筋)

絶望した農民は、すべてを捨てて山にこもって世捨て人になったり、貧困から抜け出すチャンスのある都会に逃げたりする。まるで江戸時代の逃散と同じような光景が、21世紀の北朝鮮で繰り広げられているのだ。

かくして農村の労働力は不足し、その穴埋めに都会の若者が送り込まれるも、彼らにもまた逃げられてしまう。機械化が遅れており、機械があっても燃料が足りない北朝鮮の農場では、すべての作業を人手に頼らざるを得ないため、労働力不足は収穫量の減少に直結する。

(参考記事:移動の自由がない北朝鮮でも進む都市化…農村の生産力に打撃