北朝鮮の人々を苦しめ続けている深刻な食糧難。その一因である、新型コロナウイルス国内流入を防ぐための国境閉鎖は段階的に解除され、人と物の動きは徐々に活発化しつつあるが、依然として食糧難は改善していない。
空腹に耐えかねた末に犯罪に手を染める人も急増している。
ジャガイモの名産地として知られる両江道(リャンガンド)の大紅湍(テホンダン)では、姉が妹を殺害するという悲劇的な事件が起きた。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
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現地の情報筋によると、大紅湍郡では9月から、食べ物の蓄えもそれを買う現金も完全に底をついた「絶糧世帯」に対する支援事業が始まった。洞事務所(末端の行政機関)の幹部は町内の家々を回り、絶糧世帯を見つけ、1世帯あたりトウモロコシ2.5キロを支給することにした。
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洞事務所にトウモロコシを受け取りにやって来た20代の姉妹は、農業に従事する人が一般的な地域では珍しい工場労働者だった。しかし、常に食糧不足に苦しめられ、まともに出勤できないほどに追い詰められていた。トウモロコシを見た姉妹は理性を失い、その分け方を巡って喧嘩になったという。その状況を、現地の別の情報筋は次のように伝えた。
「飢えた末に久しぶりにトウモロコシを見た姉妹は、自制心を失ったようで、口論となり、もみ合いの喧嘩となった。姉が台所にあった杵で妹を殴りつけ、死なせてしまった」
姉妹は、数年前から深刻な食糧不足に苦しめられ、そのうち両親が亡くなり、2人で暮らしていた。高等中学校(高校)を出た2人は日用品工場に配属となったが、まともに栄養が取れていないため、体が弱くほとんど出勤できていなかった。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面この話を知った近隣住民は、「たった2キロ(のトウモロコシ)が発端となった悲劇」だと語り、悲痛さをもって受け止めていると情報筋は伝えた。なお、食糧難が最も深刻だった今年の春、郡が行った調査では6〜70人が餓死したこととのことだ。また、噂は道内にあっという間に広がり、「空腹のせいで起きてはならない事件が起きてしまった」と、食糧問題を放置して、住民の統制ばかりに熱心な当局のやり方を批判する声があがっている。
大紅湍では、故金正日総書記が旗振り役となり、大々的にジャガイモ農場が造成されたことで知られる。他のものはなくとも、ジャガイモだけは豊富にあると思われていたが、どうやら違ったようだ。
(参考記事:北朝鮮で最悪の食糧難「ジャガイモの皮」が生命線)