北朝鮮で外国語と言えば断然英語だ。小学校3年生から英語の授業が始まり、合計で8年間習うことになっている。英語人気は決して衰えてはいないが、最近になって中国語の人気も高まっている。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
平安北道(ピョンアンブクト)の情報筋は、若者層を中心に中国語ブームが起きていると伝えた。北朝鮮の路上では、学んだ内容を諳んじながら歩く児童、生徒、学生の姿を目にするが、友人とともに歩きながら中国語会話を練習する若者の姿が目につくという。
外国語学習の重要性は国も認めるところであり、2008年から小学校での英語授業が開始、2013年からはロシア語の授業がなくなり、英語に統一された。ただ、英語を習ったところで使う機会がまったくないため、単に試験に合格するための科目に過ぎない。
一方で、中国は非常に実用的な外国語だ。
国境を流れる鴨緑江を挟んで中国の丹東を向かい合う新義州(シニジュ)では、中国との貿易が盛んで中国を使う仕事も多い。だが、そればかりではない。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面当局は韓国、米国のラジオ放送に対しては妨害電波を発信して受信できないようにしている。一方、中国のテレビ、ラジオに対しては妨害電波は発信していない。中国も北朝鮮同様に報道の自由がない国ではあるが、報じられる国際ニュースの量は桁外れに中国のほうが多い。中国語を学んでおけば、北朝鮮では報じられない国際ニュースが得られるというわけだ。
もちろん、外国の放送の受信は違法だが、韓国や米国のテレビを見て摘発された場合には重罪に処されるのとは異なり、中国のテレビの場合だと、そこまでのリスクはない。
(参考記事:北朝鮮「韓流コンテンツを流通させたら死刑」反動思想文化排撃法の全文公開)ちなみに、同じ中国国境沿いの地域でも、平安北道の対岸は朝鮮族の少ない遼寧省で、番組はすべて中国語だ。一方、両江道(リャンガンド)や咸鏡北道(ハムギョンブクト)の場合、対岸は吉林省であり、朝鮮語のテレビ、ラジオ放送があるため、中国語を学ばなくとも、国際ニュースが得られる。それでも中国語ブームが起きている。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面咸鏡北道の情報筋は、清津(チョンジン)でも中国語ブームが起きていると伝えた。実際、生徒たちも英語より中国語の方により関心を持つようだ。
清津では、英語を学んだところで、英語を使う外国人に会う機会は一生に一度あるかないかだが、中国人観光客ならいくらでも会う機会がある。また、中国語のテレビ、ラジオに加えて本も読めて、より知識を得ることもできるなど、メリットが非常に多い。何よりも、北朝鮮の若者は、外国に対する関心が非常に高い。その欲求を満たしてくれるのが、中国語というわけだ。
各地には、一般の中学、高校に相当する外国語学院、そして外国語大学が存在する。一般教育に加え、中国語、英語、日本語、ロシア語が学べるが、競争率が高く、コネとカネのある幹部やトンジュ(金主、ニューリッチ)の子どもでなければ入学は非常に困難だ。
(参考記事:子を思う「親心」が違法行為になる北朝鮮の受験戦争)人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面
一方で、一般住民でも授業料さえあれば受講できる外国語講座が開設されている。
咸鏡北道図書館では、数年前から中国語講座を開設し、300元(約5800円)から500元(約9680円)という高い授業料にもかかわらず、受講者は毎回定員を超える人気ぶりだ。
今のところ、外国人観光客の受け入れは再開されていないが、国連安全保障理事会の制裁下にあっても、確実に外貨稼ぎができる観光業に、北朝鮮は大いに期待をかけている。彼らの学んだ中国語が生かされる機会は、そう遠くない未来に訪れることだろう。
(参考記事:「アフターコロナの観光業」に賭ける金正恩のささやかな野望)