北朝鮮は、意外とリサイクルが徹底している国だ。SDGs(持続可能な開発目標)に積極的というわけではない。単にモノが足りていないのだ。ペットボトル一つ取っても、石油由来のポリエチレンテレフタレートが原料であるため、輸入に頼らざるを得ない。
そのため、ペットボトル、古紙、くず鉄、ハギレ、動物の革、籾殻などありとあらゆるものがリサイクルの対象となっている。
2020年4月の最高人民会議(国会に相当)第14期3回会議では「リサイクル法」が、昨年10月の第14期第22回総会では「買付法」(収買法)が採択された。この「買付法」について、国営の朝鮮中央通信は次のように報じている。
買付法は、買付活動において制度と秩序を厳格に立てて買付品に対する人民経済的需要を円滑に満たし、人民の生活を向上させることに寄与するのを使命としている。
リサイクルされた原材料を使った「8.3製品」の生産を奨励する内容と思われる。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面ある火葬場では、再生繊維工場とペンキ工場、家具工場がコラボして、亡くなった人の遺体から死装束を剥ぎ取って服を作り、棺桶で家具を作った。これが朝鮮労働党により国家経済発展5カ年計画の「優秀事業所」に選ばれるという、笑えない冗談のような出来事も起きている。
(参考記事:金正恩命令「火葬場でリサイクル」の実態に北朝鮮国民が驚愕)
一方、このリサイクルを巡って、様々な不正が起きている。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面平安南道(ピョンアンナムド)の情報筋は、安州(アンジュ)市の収買事業所の支配人が今月13日ごろ、検察所に呼び出され取り調べを受けていると伝えた。
市内の製紙工場と食品工場では、収買事業所からリサイクルされた古紙や空き瓶を受け取って、8.3製品を生産することになっていたのだが、供給が行われなかったため、生産計画(ノルマ)が達成できなくなってしまった。
市人民委員会(市役所)傘下の収買事業所は、各地域の収買所が住民に供出させたリサイクル対象の物を集め、国営工場に安い国定価格で売り渡すことになっている。
(参考記事:北朝鮮の女性を追い詰める「犬の毛皮」供出命令)人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面
しかし、それでは儲けにならず、収買事業所の運営が成り立たない。そのため、集めた物の一部を市場価格で横流しし、上層部もそれを黙認していたのだという。
例えば、酒瓶1本の国定価格は10北朝鮮ウォン(約0.16円)だが、市場価格は300北朝鮮ウォン(約4.8円)から500北朝鮮ウォン(約8円)になる。これだけ値段に差があれば、市場に売り払うのも合点がいく。例えば、今年1月、各地域の収買所に集められたリサイクル品を集めるためのトラックに使う燃料を調達するために、酒瓶1000本を市場に横流ししたという。
検察所で取り調べを受けている支配人は、「事業所の運営資金を調達するためにリサイクル品を市場に売っただけなのに、なぜ毎日取り調べを受けなければならないのか納得できない」と漏らしたという。
他の地域でも同様の事件が起きている。別の情報筋によると、平原(ピョンウォン)郡の収買事業所の支配人や中間幹部が検察の取り調べを受けている。郡内の工場がリサイクルされた原料を受け取れず、生産ノルマが達成できなかったからだ。
検事の話では、平安南道検察所が、収買事業所の幹部の不正行為を集中的に取り調べよとの指示を下したからだとのことだ。ただ、全国的に同様の調査が行われているかは確認できていないと、この情報筋は語っている。
(参考記事:北朝鮮の少年少女を苦しめる「気持ち悪い」冬休みの課題)問題の根本は、収買事業所に最低限の予算も配分せず、「自力更生」を求める国にある。私腹を肥やすためではなく、予算捻出のために不正行為を働かざるを得ない状況を作り出していることそのものに問題があるのだ。