容疑者を逮捕し、取り調べの過程で激しい拷問にかけ、家族から金品を脅し取るというのは、北朝鮮の保衛部(秘密警察)の常套手段だ。
中でもターゲットにされやすいのが、脱北して韓国や第三国に住む家族を持つ人々だ。全てではないが、海外にいる家族と携帯電話でやり取りして送金を受け取り、それなりの生活をしていることから、いいカモになるのだ。
保衛部の脅迫は、海外に住む脱北者に及ぶこともある。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋によると、中国との国境に近い地域で今年1月21日、韓国に住む娘と携帯電話で通話した容疑で、母親が保衛部に逮捕された。
母親は家から遠く離れたところまで行って、娘と通話していたところを保衛部に急襲された。ここまでならよくある話だ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面だが、現場にはいなかった残りの家族3人まで、自宅で逮捕され、衆人環視の中、連行されたことが地域住民を驚愕させている。事実上、連座制が適用されたのだ。
(参考記事:男たちは真夜中に一家を襲った…北朝鮮の「収容所送り」はこうして行われる)他の国では主に選挙違反に適用される連座制だが、北朝鮮では経済事犯から政治犯に至るまで幅広く対象になる。だが、携帯電話での通話で連座制が適用されることは今までなく、一家が連行される様子を目撃した住民の間からは「あまりにもひどすぎる」との声が漏れ聞こえたという。
話はここで終わらない。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面保衛部は、韓国に住む娘に対して、家族の身代金として巨額のワイロを要求したのだ。娘はカネをかき集め、1000万ウォン(約103万5000円)を保衛部に送ったが、彼らは約束を守らなかった。家族4人のうち、3人しか釈放しなかったのだ。
釈放されたのは本来の容疑者である母親と、事件とは関係ない妹2人。いずれももひどい拷問を受け、体中があざだらけになって家で治療を受けている。妹の1人は特にひどい拷問を受けたのか、長らく起き上がることすらできずにいる。
(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは…)
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面一方で未だに釈放されていないのは、事件とは関係ない息子だ。つまり保衛部は最初からカネを奪い取る目的で、一家4人を逮捕し、さらに追加でカネを奪い取ろうと、息子を人質に取っているのだ。
韓国に住む娘はRFAの取材に「重い刑を免れなくなった家族を救うためになんとかして1000万ウォンという多額の送金を行ったが、弟が未だに釈放されていないとの話を聞き絶望している」「保衛部がさらにカネをむしり取ろうとしているのは明らかだが、どうすればいいのかわからない」とふさぎ込んだ様子で語った。
最近は、携帯電話の使用や送金への取り締まりが厳しく、複数の人を介してようやく送金できたが、送金額の4割もの手数料を別途払うことになったとも述べた。
(参考記事:北朝鮮「金正恩の動静情報」国外流出の”スパイ”を逮捕)両江道(リャンガンド)の情報筋によると、恵山(ヘサン)市内に住む脱北者家族は、地域担当の安全員(警察官)や保衛員から一挙手一投足を監視されている。送金を受け取っていることをネタに脅迫され、随時カネをせびり取られ、時には逮捕される。
普段から安全員と保衛員の傍若無人さに怒りをつのらせている地域住民は、巨額の身代金を受け取っても息子を釈放しない保衛部のやり方に激怒しているが、何もできずにいる。
北朝鮮当局は、海外と通話が可能な中国キャリアの携帯電話が、国内情報の国外流出・国外情報の国内流入の主要ルートと見て、厳しい取り締まりを行っている。これにより、適度なワイロで済ませていた保衛部も、携帯ユーザーが減ったり、より見つけにくくなったりしたことで、以前のようにワイロが得られなくなった。そこで、一攫千金を狙って強硬手段に出ていると考えられる。
(参考記事:泣く子も黙る金正恩「拷問部隊」、もはや生き残りに必死)