国連安全保障理事会の制裁決議2397号に基づき、すべての国連加盟国は北朝鮮労働者の新規雇用を禁じ、2019年12月22日までに送り返すことが義務付けられていた。ところが中国では、インターンや留学ビザ、一時滞在ビザを使ってビザラン(滞在期間を延長するために、一度帰国してすぐに戻る行為)を行うなどの手法で、「制裁破り」が繰り返されている。
実質的には労働者でありながらも、法的には労働者として扱われないこともあり、制裁破りとは別に、低賃金の長時間労働という問題を抱えている。だが、市場の論理に基づいて、待遇の改善が進んでいる部分もある。
(参考記事:「脱コロナ消費」を下支えする北朝鮮労働者のブラック労働)
デイリーNKの中国国内の情報筋によると、遼寧省で働く北朝鮮労働者の平均月給が3200元(約5万5000円)から3300元(約5万7000円)に引き上げられ、夜まで残業を行って3500元以上を稼ぐ者もいる。以前に比べて1000元(約1万7000円)以上の引き上げだ。
ただし、一律に賃上げが行われているわけではなく、業種や事業所の規模に応じて額には差があるとのことだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面昨年、北朝鮮は再契約のタイミングに合わせ、月3500元(約6万円)への賃上げを要求し中国側と交渉を行ったが、中国側は高すぎるとして難色を示していた。これに対して北朝鮮側は、労働者に対して中国からの撤収を命じ、中国側にプレッシャーをかけた。
アパレルや家電工場で、朝から午前2〜3時まで働き詰めなのに、月に得られるのは1700元(約2万9000円)から2000元(約3万4000円)程度で、労働者からは「(北朝鮮当局に)忠誠の資金を納めたら、帰国時になっても手元にカネが残らない」との不満が高まっていた。
ところが、今月になって改めて要求したところ、受け入れられたという流れだ。その背景には、華南地方での新型コロナウイルスの感染拡大がある。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面同地方の工場の操業が困難になったことで、北朝鮮労働者を雇っている遼寧省と吉林省の企業の受注が急増した。北朝鮮労働者は賃金が中国人の4分の1ほどで、保険料を支払う必要もなく、熟練度が高く、離職率も低い。こうした競争力の高さに加え、従業員から感染者も出なかった。
こうした状況を受けて、派遣される北朝鮮労働者も増加した。北朝鮮当局も労働者も待遇改善に概ね満足していると伝えられている。
(参考記事:中国ブラック企業の北朝鮮労働者が支える世界の防護服供給)厳然たる制裁逃れの労働者派遣だが、喉から手が出るほど外貨を欲しがっている北朝鮮当局と、賃金が安くてよく働く労働者を求める中国企業との利益は合致している。また、一気に撤収されると企業の損害が大きくなると考える中国当局も、労働者の撤収を望んでいないと、情報筋は語った。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面賃上げに伴い、北朝鮮当局に納める「忠誠の資金」も引き上げられたものと思われるが、その額はわかっていない。ちなみに別の情報筋は昨年6月「月給が3500元に引き上げられたら、党資金(忠誠の資金)は1800元(約3万1000円)まで上がるだろう」「少なくとも300元(約5100円)、500元(約8600円)は上がるはず」などと述べている。