北朝鮮の国家保衛省(秘密警察)は先月末、全国の幹部を集めた会議で、国境地域でトラブルを起こした者は無条件で重罰に処すとの方針を示した。
このトラブルとは密輸、人身売買、脱北などすべての違法行為を指すが、これらすべてを反国家犯罪とみなすというものだ。幹部と言えども例外扱いにはならず「幹部の家族のうち、権力を笠に着て中国キャリアの携帯電話を使って密輸、カネの移管(送金)、人身売買などの犯罪行為を露骨に行う者から葬らなければならない」(保衛局長)という厳しさだ。さらにはこんな通知もあった。
「労働党、保衛部、安全署、検察所、裁判所のイルクン(幹部)の家族、親戚、または彼らが庇護する非法分子が二度と頭をもたげられないように一般犯罪者ではなく、思想が間違っている者として烙印を押し、政治犯扱いせよ」
「関係のある幹部でも容赦せず、党が打ち出した遵法原則を盾に即刻逮捕、捜査せよ」
そして最近、この指示の後続措置が発表された。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面北朝鮮事情に明るいデイリーNKの情報筋によれば、鴨緑江で運航する船舶には無条件で保衛員(秘密警察)を同乗させなければならなくなったという。貨物船も漁船も、北朝鮮で登録された船舶に一律に適用される。
船に同乗するのは地元の保衛員ではなく、平壌から派遣されてきた要員だ。地元の保衛部は、密輸業者からワイロを受け取って密輸を見逃すばかりか、グルになって密輸を行うことも少なくない。
裁判官や検察官ならば、カネさえ払えばいくらでも抱き込める。これでは取り締まりの効果が上がらないことを重々承知している政府は、地域とは縁もゆかりもない要員を送り込んだというわけだ。
(参考記事:「量刑はワイロで決まる」北朝鮮の常識)人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面
取り締まりの強化が、密輸の根絶につながるかどうかは未知数だ。一方、一連の指示を受けて密輸業者の間で囁かれているのは「ワイロ相場の上昇」だ。
密輸業者の庇護を請け負う保衛員、国境警備隊員にとって、取り締まりの強化は自身のリスクの高まりも意味する。ただでさえ新型コロナウイルスの感染防止対策として外国人との接触が禁じられ、違反者が処刑されている中で、そうおいそれと密輸の片棒を担ぐわけにはいかない。
(参考記事:違反者は軍法で処刑…北朝鮮の厳重なコロナ対策)
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面しかし、密輸1回の儲けは最大で1万元(約15万1000円)。北朝鮮で真面目にコツコツ働いたところで一生かかっても稼げない金額だ。これまでも、密輸を行うには地元の保衛部にワイロを渡さなければならなかったが、その金額の相場が1回あたり5000元から7000元まで上がるのではないかとの声が上がっている。今回の取り締まり令は「密輸は減らず、ワイロの費用が上がるだけ」(情報筋)に終わるかもしれない。
取り締まり強化によりワイロ相場が高騰するのは、今回に限ったことではない。その代表例が脱北するに際して国境警備隊員に払うワイロだ。
デイリーNKの調査によると、2006年に咸鏡北道(ハムギョンブクト)から中国に渡るために必要なワイロはおよそ500元(当時のレートで7000〜7500円)だったが、それが2010年には最高で1万元(当時のレートで約13万円)となり、今では、地域や状況によって異なるものの、100万円を超えるまでになっている。
(参考記事:脱北費用の高騰で大儲けする、北朝鮮の「悪いヤツら」)