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かつての北朝鮮では、質や量は十分でなくとも無償で教育、医療、食料の配給が得られ、人々は国家に依存して暮らしていた。

ところが、1990年代後半に「苦難の行軍」と呼ばれる大飢饉が起きたことで、様相は一変する。上記のような無償・配給システムは崩壊し、チャンマダンと呼ばれる市場でモノを売らなければ生きていけない状況となったのだ。

そのような時代しか知らない30代前半までの若者たちを「チャンマダン世代」と呼ぶ。昔の日本の流行語で言えば「新人類」だ。彼らにとって、国家や指導者は商売の邪魔をし、自由なライフスタイルに干渉する「ウザい存在」に過ぎない。

(参考記事:「いま米軍が撃てば金正恩たちは全滅するのに」北朝鮮庶民のキツい本音

そんな自由奔放な彼らの存在に、北朝鮮当局は手を焼いている。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

チャンマダン世代がもたらしたものの一つが、結婚観の変化だ。

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北朝鮮で結婚は愛する男女が結ばれ家庭を築く、喜ばしいものだった。また、娯楽が少なく、抑圧的な監視社会の北朝鮮では、家族との団らんが大切にされてきた。ところが、今どきの若者にとって結婚は「個人の自由を奪う不幸の始まり」だ。

晩婚化、少子化はすでに北朝鮮でも社会問題となっており、金正恩党委員長は妊娠中絶手術を禁止するなどの対策を取っているが、そんなもので解決するような問題ではない。

(参考記事:金正恩氏の核・ミサイルが招く「少子化」と中絶ビジネス

また、最近増えているのは「同棲」だ。結婚して一緒に暮らしてみたものの、性格やライフスタイルの不一致に気づき離婚しようにもそう簡単にはいかない。

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北朝鮮当局は離婚を害悪と見て、裁判離婚のみを認めている。「社会と革命を利する場合のみ容認する」と非常に厳しい条件をつけているため、そもそも婚姻届を出さず「事実婚」の形をとる若いカップルが増えている。

(参考記事:「暴力は離婚理由にならない」北朝鮮の司法が生み出す「捨て子」増大

さらに、当局を悩ませているのが大都市で見られるようになった「トンゴジプ」と呼ばれるものだ。「同居の家」つまり、日本などで言うところの「シェアハウス」を指し、10代から30代の若者が共同で部屋を借りて住むというものだ。

ところが、シェアハウスで麻薬を使用したり、アダルトビデオを見たりするなど「快楽を追求し堕落した生活を送る」(情報筋)若者もいるという。また、上の世代からすると結婚前の男女が一緒に住むことそのものが、衝撃的なことのようだ。

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また、こんな事件も起きた。

「避妊の知識が足りない未婚女性が妊娠問題で悩み、中絶手術を受け、胎児を道端に捨てる事件が起きて社会的に物議を醸している」(情報筋)

業を煮やした当局は、対策に乗り出した。

現地の別の情報筋によると、党中央(朝鮮労働党中央委員会)はこれらの現象を「青年たちの思想の緩み」とみて、「西側式文化を根絶させよ」との指示を下した。

「社会主義を建設していた一部の国では、経済建設にのみ偏り、青年教養事業に力を入れなかったため、西側式自由主義に染まった青年たちが社会主義制度を倒す先頭に立った」と指示文では述べられている。

指示に基づき、金日成・金正日主義青年同盟は「腐敗と堕落のくぼみに落ちた青年たちの問題を正し、革命的首領観を国風に発展させることについて」というテーマで話し合いを行っているという。

また、保安署(警察署)や保衛部(秘密警察)などの司法機関は、韓流取り締まり班の109常務を動員し「トンゴジプ」を急襲、抜き打ちで家宅捜索を行うなどの取り締まりを行っているが、もはや手遅れだろうと情報筋は見ている。

ちなみに、今年2月に発表された韓国保険社会研究院の「未婚人口の結婚関連態度」という報告書によると、結婚する意思が未婚女性の割合は45.3%にとどまった。これは2015年の64.7%と比べて20%近く下落したものだ。若年層の就職難に加え、結婚後に仕事と育児を両立させることの難しさ、女性の意識の変化が背景にあるものと思われる。

このような韓国の若者の意識の変化は、映画、ドラマなどに反映され、それが北朝鮮に伝わり、北朝鮮の若者の意識をも変化させている可能性は十分あり得るだろう。