金正恩氏の核・ミサイルが招く「少子化」と中絶ビジネス

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朝鮮半島の南でも北でも、晩婚化、未婚化、少子化が進んでいる。

韓国の世論調査会社TNSが2009年に行った調査によると、53%が「必ずしも結婚しなくていい」と答えている。中でも女性の68%は、結婚に否定的な考えを持っているという。特殊出生率は1.25人で、日本の1.40人をも下回り、世界最下位レベルだ。

一方、北朝鮮の特殊出生率は1.97人と、224の国と地域の中で128位を記録している(米CIAの調査)。

しかし、北朝鮮の国内から伝わってくるのは、激しい晩婚化、未婚化、少子化の現状だ。総人口が約2300万人の北朝鮮において、少子化は中長期的に人口減少につながり、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の兵力減少につながるなど、与えるダメージは決して小さくない。

金正恩氏は、少子化対策として「今後、国家の幹部事業に子供の数を反映させよ」と指示。これは、幹部は子供を作れば作るほど昇進で有利になるようなことを意味し、「40代で子供3人」がノルマだとも言われる。しかし、正恩氏の指示も少子化を解消するほどの効果はないと見られる。

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最近中国を訪れた平壌市民によると、子どもを1人以上生む夫婦は「愚か者」扱いされるという。2人以上生むのは、経済的に余裕のある幹部やその家族、トンジュ(金主、新興富裕層)ぐらいだ。

堕胎禁止が少子化対策?

北朝鮮の女性たちは、20代の結婚は「早すぎる」と言われ、30代で結婚するのが一般的だが、年々、結婚を避ける女性が増えている。

最大の理由は、女性が商売で忙しいからだ。背景には北朝鮮独特の社会事情がある。男性は、国営企業などの「正式な職場」に所属しているため、原則的に市場で商売ができない。しかし、月給はわずか5000北朝鮮ウォン(約75円)前後。コメ1キロが買えるかどうかだ。

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こうした中、女性が市場で商売をして、一家を支えざるをえない。しかし、結婚、出産、育児となると、商売ができなくなる。つまり、生き残るためには、結婚や出産などしている暇がないのだ。さらに、「無償」のはずの教育にもカネがかかる。

北朝鮮当局も、晩婚化、少子化に対しては、様々な対策を打ち出している。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋によると、当局は、市場の売台(ワゴン)を子どものいる女性を優先して割り当てるという出産奨励策を取っている。しかし、「売台が欲しさに子どもを生む人がどこにいる」(情報筋)というのが現実だ。

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さらに、堕胎を厳しく取り締まっているが、それが、むしろ産婦人科医が個人宅に出向き内緒で堕胎手術を行うという、「ヤミ医者」稼業の温床を生み出している。

金正恩第1書記が、本気で出産奨励策を取るのなら、まずは経済を安定させることが最優先だ。しかし、子供ではなく、「核とミサイルを産み出す」ことばかり考えている金正恩氏に、それを期待するのは無理なようだ。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記