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「偉大なる首領様がお作りになったわが国の社会主義保険制度は、誰でも病気治療に対して心配することなく、健康な体で働き、幸せな生活を享受できるようにする最も人民的な保険制度です」(金正恩党委員長)

金日成主席は1949年1月、国の財政的負担が大きくなっても、人民の無病長寿のための全般的無償治療制度を必ず実施しなければならないと述べ、朝鮮戦争の最中だった1952年11月に無償治療制度を行うことを定めた内閣決定を行った。

それから70年余、米政府系のラジオ・フリー・アジアの両江道(リャンガンド)の情報筋は、無償治療制度の現実をこのように伝えた。

「今、恵山(ヘサン)だけ見ても、歯周病と(歯の)痛みに苦しみ、歯が全部抜けて食事もまともにできない人が増えている。彼らは病院での治療も受けられず、放置されている。彼らの願いは入れ歯を入れることだ」

こんなことになってしまったのは、北朝鮮が誇る無償治療制度が崩壊し、すでに有名無実のものになっているからだ。地元の国営病院には口腔課が存在した。以前ならそこで治療が受けられたのだが、1990年代の大飢饉「苦難の行軍」を前後して、病院が機能しなくなってしまった。医薬品も不足している。

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麻酔なしで手術を受けたという脱北者の証言もある。

(参考記事:英政府「北朝鮮で手術をするな」と勧告…身の毛もよだつその理由とは

医師たちは自宅で開業しているが、補綴士(歯科技工士)も同じだ。彼らは自宅で、患者の注文に応じて詰め物や入れ歯を製作している。ところが、これが非常に高額なのだ。差し歯は1本で120元(約1980円)、入れ歯は1000元(約1万6500円)以上もする。平均的な4人家族の1ヶ月の生活費の50万北朝鮮ウォン(約6500円)と比べると、いかに高いかがわかる。

「補綴よりも、入れ歯を求める50代以上の中高年層が多いが、補綴と比べて入れ歯は時間がかかり技術も必要とあって、1000元以上の費用を負担しなければならない。個人の補綴士は、密輸で取り寄せたロシア製の材料を使うからだ」(情報筋)

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咸鏡南道(ハムギョンナムド)の情報筋によると、吉州(キルチュ)郡でも鉄道病院の口腔課で補綴士として働いていた50代男性が、自宅で開業している。患者の注文に応じて部分入れ歯、完全入れ歯から選べるようにしてある。

入れ歯にも北朝鮮社会の格差拡大が現れている。トンジュ(金主、新興富裕層)は健康によく長持ちする金歯を入れようとするが、貧しい庶民は安物の材料でできた長持ちしない入れ歯を選ぶ。

北朝鮮の人々の「お口の中の事情」を示す、こんなエピソードがある。

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北朝鮮国家ホッケーチームの主将、チン・オク選手は今年1月、平昌オリンピックに出場するために韓国にやって来たが、選手村で歯の痛みに襲われた。大韓歯科歯科医師協会は移動病院車を派遣、チン選手の歯の治療を行った。

チン選手は虫歯を長期間放置したため、神経までが菌に感染して炎症を起こしており、神経を抜く治療を行ったという。単に歯医者嫌いだった可能性もあるが、国を代表する選手ですら歯科治療を受けられないとなると、一般国民の状況は推して知るべしだ。

北朝鮮では、30代以上になると歯周病で苦しむ人が多い。その理由について前述の情報筋は、歯磨き粉と歯ブラシの不足、うがいなど口腔衛生を保つ習慣の欠如を挙げた。また喫煙者が多く、栄養が十分でないことも原因になっているとのことだ。

ちなみに北朝鮮の歯科医院では、二重まぶたなどの整形手術も行っている。未だに機能している歯科医院は、日本製の医療機器を取り揃えているからだという。