先月末、北朝鮮の咸鏡北道(ハムギョンブクト)で保衛部(秘密警察)が、容疑者の女性に対する取り調べの過程で性的暴行を行う事件が起きた。保衛部は責任者の処罰を行うどころか、事実を隠蔽しようとし、事件をネタにして家族にカネを要求する始末だという。
現地のデイリーNK内部情報筋によると、道内のある郡の保衛部は先月末、30代の女性キムさんを逮捕した。容疑は不法越境、つまり脱北しようとしたというものだ。
キムさんは郡保衛部に連行され、留置場に入れられた。深夜勤務中だった戒護員(留置担当者)2人は飲酒して泥酔し、キムさんを呼びつけた。マッサージをさせた後、ベッドに押し倒し服を脱がせて性的暴行を行おうとした。
キムさんは戒護員を振り切って逃げて駐車場に身を隠したが、再び捕まり性的暴行を加えられた。それも1人が部屋の外で見張りをしている間に、もう1人がキムさんに猿ぐつわを噛ませて手足に手錠をかけて殴りつけ、気絶させた状態で事に及んだというのだ。
翌朝、留置場で気絶した状態で発見されたキムさんは、病院に搬送されて取り調べを受けているという。キムさんの家族は事件のことを知り激怒した。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面「キムさんは病院に見舞いにやってきた家族から弁当を受け取ったが、弁当箱を返すときに、戒護員から性的暴行を振るわれた、上級機関に告発して人権侵害の実態を暴露し、取り調べ担当者を変えさせてほしいと書いたメモを入れて家族に知らせた」(情報筋)
家族は、キムさんの要望通りに上級機関の咸鏡北道保衛部に告発しようとした。それを知った郡保衛部の上層部は、「事件が広がれば道保衛部に移管されるほどになる、そうなればもっと苦しいことになる」と脅迫し、「3万元(約48万7000円)を支払えば、病気扱いにして釈放してやることもできる」と懐柔しようとした。
金正恩党委員長は、保衛部や人民保安省(警察庁)に対して、職権を乱用して金儲けをするな、住民に対する暴行、拷問などの人権侵害をやめるようにとの指示を下したと伝えられている。上層部は処罰を恐れ隠蔽に走ったのだろう。それと同時に、これをネタにしてカネをせびり取ろうとしたのだ。
(参考記事:金正恩氏の「拷問部隊」が態度を豹変させた理由)人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面
家族は結局、上部機関への通報を諦め、キムさんを守るために3万元を用意するために駆けずり回っているとのことだ。脱北は、射殺されてもおかしくないほどの重罪であることを考えると、カネを払ったほうが得策と考えたようだ。
(参考記事:警告なしに射殺…金正恩氏がどうしても「ガマンできない」こと)北朝鮮の人びとは、性的暴力やセクシュアル・ハラスメントがどのようなものかという知識を持たないこともあり、加害、被害が後を絶たないと言われている。
(参考記事:北朝鮮女性、性的被害の生々しい証言「ひと月に5~6回も襲われた」)