金正恩氏の「拷問部隊」が態度を豹変させた理由

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北朝鮮の金正恩党委員長が、国家保衛省に対し「人権侵害をやめよ」と指示を出したことで、保衛員(秘密警察)の国民に対する態度が変わりつつあるという。

保衛省は、拷問や公開処刑を担う秘密警察であり、金正恩体制の恐怖政治を支えてきた。しかし正恩氏は、人権侵害を追及する国際社会の目を気にしたのか、今年1月までに職権を乱用して金儲けをするな、住民に対する暴行、拷問などの人権侵害をやめるようにとの指示を下したと伝えられている。

両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋によると、今年の初めごろまでは、ちょっとしたことでケチを付けて住民からカネをむしり取ろうとしていた保衛員が、最近になって随分と腰が低くなり、強圧的な態度を取ることがかなり減ったという。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋は、会寧(フェリョン)市保衛局員の次のような例を挙げた。

この保衛員の息子は、軍隊に行っていたのだが、まもなく除隊する予定だ。そこで、保衛員は住民に対して中国人民元で5000元(約8万3000円)の資金を援助してほしいと言い出した。息子の「集団進出」を免除してもらうためには、ワイロが必要であるためだ。

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集団進出とは、生産現場で労働力が不足した場合に、学校卒業生や除隊軍人を送り込むことを指す。山奥の農場などに送り込まれ、苦しい生活を強いられる。

資金援助とは言っても、半ば脅迫されていやいや出すのが当たり前だったが、この保衛員は以前とは異なり、「何とか払ってもらえないか」と頼み込むようになった。それを見た人々は一様に驚いている。

保衛省と言えば、トップの金元弘(キム・ウォノン)氏が正恩氏の寵愛を受け、飛ぶ鳥を落とす勢いだった。その権力を笠に着て、保衛員は利益の追求に走るなどやりたい放題だった。

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ところが、金元弘氏が解任され、局長クラスの幹部6人が処刑されたことで、保衛省の地位は大幅に低下した。そこに加えて先述した正恩氏の指示もあり、保衛員の態度がおとなしくなったというわけだ。

そんな保衛員の姿を見た一般住民は、驚きつつも、「一時的なものだろう」と冷ややかな目で見ている。権力を利用して上納金を貪る慣行をそう簡単に捨て去るわけがないからだ。

逆に、保衛省の権力が再び強化されるとの観測も出ている。金元弘氏の解任と幹部の処刑はガス抜きに過ぎず、金正恩氏にとって、保衛省は自身の恐怖政治に欠かせない省庁だけあって、地位が低下したままで放置することはないだろうというのだ。

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長年恐怖政治のもとで暮らしてきた北朝鮮の人々が、お上をそう簡単に信用するわけはないのである。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記