北朝鮮の監視体制を末端で担っているのは、人民班と呼ばれる組織だ。日本の町内会や隣組に似たものだが、その班長は住民の思想動向や経済状況などを把握、監視する一方で、当局との橋渡し役にもなっており、時には当局の横暴から住民を守る役割を果たすこともある。
住民にとっては、班長との関係をいかに良好に保つかが大切だが、班長も選挙で選ばれるため、住民の信頼を失うとポストから追いやられてしまう。気苦労が多い割にはメリットが少なく、「無報酬の使いっ走り」と揶揄される始末だ。かつてはなり手がなかなかいなかったが、平壌のデイリーNK内部情報筋は「最近では引き受けようとする人が意外に多い」と語る。
(参考記事:住民を監視しつつ、当局の横暴から住民を守る北朝鮮の人民班長)平壌市内の人民班長は、問題を起こした人を町内から追放する権限を持たされるようになった。また、保衛部(国家保衛省、秘密警察)の担当者が監視目的で町内の民家を訪れる場合には、班長が同行するなど、以前とは異なり「権力を持ったポスト」になりつつあるという。
変化が生じたのは、国家保衛省のトップを務めた金元弘(キム・ウォノン)氏が解任されてからだという。
(参考記事:金正恩氏が「天国から地獄」へ突き落とした大物2人)権力乱用が指摘され、不正を防止するための対策として「(国家機関が)人民の上に君臨する現象をなくせ」という指示が朝鮮労働党から出された。それを受けて権力の分散が進み、人民班長にも一定のパワーが分け与えられたという指摘だ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面一方、両江道(リャンガンド)の情報筋によると、人民班長の力が強くなることについて住民は「権力が特定の機関から、末端幹部である人民班長にまで均一に分けられた」として、肯定的に見ている。
保安員(警察官)や保衛員(秘密警察)は従来、権力を武器にして一般市民に何かとイチャモンをつけて脅迫、恐喝してカネをむしり取るものだった。だが、悪徳保安員らが検挙され、彼らが持っていた権限の一部が人民班長に移譲されたことで、ユスリタカリが以前よりはましになっているという。
また、市民に暴言を吐いたり、暴力を振るったりする権力者に対して抵抗する人も増えている。人民班長への権限委譲も、既得権を守ろうとする勢力から、庶民が勝ち取った成果であると情報筋は見ている。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面人民班長は、北朝鮮では選挙で選ばれる唯一の存在だが、民意や信頼を失えば続けることはできない。かつては、上部機関や地域幹部が家族や親類縁者を送り込んでくる事例や、ポストを乗っ取ろうとした事例もあったが、市民の意識が高まるに連れ、そういうことは過去のものとなったと情報筋は伝えた。
昨年3月、咸鏡北道の清津(チョンジン)では、幹部の妻が党の委員会から人民班長に指名されたが、「人民班長は住民の生活のケアをしなければならないのに、ワイロ漬けの幹部の家族が一般庶民の心情などわかるわけがない」と住民から強く反発され、就任の辞退を余儀なくされている。
(参考記事:ワイロ漬け候補者が落選…北朝鮮の選挙に民主主義の芽生え!? )