北朝鮮が誇る高級化粧品「ポムヒャンギ」(春の薫り)。金正恩党委員長イチオシの「ウナス」(銀河水)を抑えて、消費者の人気を独占していると伝えられている。
(参考記事:正恩氏が執着する化粧品ブランド名に隠された「愛のメッセージ」)この化粧品は、平安北道(ピョンアンブクト)の新義州(シニジュ)化粧品工場が製造元だが、売れ行きがよく従業員への配給を再開できたと、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)の情報筋が伝えている。
新義州の隣、龍川(リョンチョン)の情報筋によると、同工場は昨年末から食糧配給を徐々に増やし、今年に入ってからは毎月コメを、それも規定量を配給するようになった。ちなみに北朝鮮政府が定めた1日1人あたりの配給目標は573グラムだ。
他の工場の労働者は、特別な機会にしか配給をもらえないため、化粧品工場の労働者を羨望の眼差しで見つめているという。情報筋は配給正常化のワケを次のように説明した。
「昨年、お上(金正恩氏)が平壌の化粧品工場を視察し、国産化粧品の質を改善し、生産量を増やせと指示を下した。それに従い、新義州化粧品工場も原料を中国から輸入して、質の高い化粧品を作っている」(情報筋)
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面工場への原料供給が正常化し、国からの生産量のノルマが増やされた。それでより多くの労働者と技術者が必要になったため、工場は高待遇を掲げて人員の募集に乗り出した。
工場の幹部は、生産した化粧品を市場で売りさばき、その代金でコメを購入、労働者に配給することで、人員募集とノルマの達成を同時にやってのけたのだ。
また、この流れで「国産はイマイチ」と考えていた女性たちが、国産化粧品を使うようになったとのことだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面平安南道(ピョンアンナムド)の情報筋によると、新義州化粧品工場は北朝鮮有数の化粧品生産拠点で、今までは少量のポムヒャンギ化粧品を生産していた。製品の多くは輸出、または国内の外貨商店に出荷され、一般の消費者の手にはなかなか届かなかった。
ところが、金正恩氏の指示を受けて、化粧品のみならず石鹸、歯磨き粉を製造するラインも増やした。化粧品はかなり高価なため、一般庶民は手が出ない。しかし石鹸や歯磨き粉なら手軽に買えるため、市場でよく売られるようになったという。ちなみに全国有数の卸売市場、平安南道の平城(ピョンソン)市場では、同工場製の洗顔石鹸が1個3500北朝鮮ウォン(約45円)で売られている。
工場の供給課は、生産した洗顔石鹸を数万個単位でトンジュ(金主、新興富裕層)に米ドルで売り渡す。手にした資金で労働者への配給を確保し、ラインも増設するというわけだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面情報筋は「すべての国営工場が、新義州化粧品工場のように市場の商人と手を結び、市場経済原理に応じて運営されるようになれば、国の経済が生き返るだろう」と期待を示した。
金正恩氏は、輸入病(何でも輸入に頼ろうとする傾向)を打破せよと口が酸っぱくなるほど言い続けているが、市場で売られる商品の8割が中国製という現状を変えるのは非常に困難と見られてきた。原材料の調達はおろか、製造に必要な電力すらまともに供給されない状況が続いてきたからだ。インフラの整備をどれだけ進められるかが、今後の北朝鮮経済の鍵となるだろう。