北朝鮮と韓国は9日、板門店で高位級会談を行う。2月9日から始まる平昌冬季五輪に北朝鮮代表団が参加するための実務問題が議題の中心になると見られる。金正恩党委員長は1日、施政方針演説「新年の辞」で、南北関係改善の前提として韓国にとってかなり厳しい条件を提示したが、とりあえず、今回の五輪には参加しそうな雰囲気だ。
仮に北朝鮮が冬季五輪に参加する場合、気になるのが「美女応援団」を韓国に送るかどうかだ。北朝鮮は、美女応援団の韓国に対する宣伝効果を熟知していると見られ、すでに送り込むことを検討しているかもしれない。
美女応援団と聞いてすぐに思い浮かぶのが、金正恩氏の美貌の妻で、何かと噂の的になってきた李雪主(リ・ソルチュ)氏だ。
(参考記事:金正恩氏「美貌の妻」の「異性問題」で殺された北朝鮮の芸術家たち)李雪主氏は2005年9月、韓国・仁川でアジア陸上競技選手権大会が開かれた際、美女応援団のメンバーとして訪韓し、ひときわ目を引く美貌で注目された。
1989年生まれとされる李雪主氏は、一般家庭の出身とされる。彼女が卒業した金星学院はエリート校ではあるが、女学生たちは時々「いやな仕事」を押し付けられたりもする。
(参考記事:北朝鮮「秘密パーティーのコンパニオン」に動員される女学生たちの涙)人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面
インターネット上では、李雪主氏は「父親が大学教員、母親は医師」とする解説が見られるが、これには異論もある。脱北者で平壌中枢の人事情報に精通する李潤傑(イ・ユンゴル)北朝鮮戦略情報センター代表によれば、李雪主氏の父は空軍の元パイロットで、最終的な階級は上佐(大佐と中佐の中間)。母親は行政サービス機関の経理担当者だという。
北朝鮮で空軍パイロットはエリートだが、高位幹部というほどではなく、特権階級に属しているとは言えない。しかしもちろん、それは娘が金正恩氏と結婚する以前の話だ。現在は「最強の娘婿」のおかげで、かなりの大型利権を握っている。
下の写真は、金正恩氏が2015年6月、李雪主氏と連れ立って、平壌国際空港に完成したばかりの新ターミナルを視察したときのものだ。金正恩氏が車内をのぞき込んでいるタクシーのドアには、ハングルで「高麗航空」と書かれている。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面李潤傑氏によれば、これは高麗航空タクシー事業所に所属する車両であり、同事業所のオーナーは李雪主氏の父親なのだ。さらに李雪主氏は、朝鮮労働党39号室傘下の金剛経済開発総会社(KKG)を通じて、自身も平壌市内でのタクシー事業に直接関与しているという。そしてこの2社は、2017年1月時点で平壌市内のタクシーの4割に当たる600台の車両を運用しているとのことだ。
(参考記事:【写真特集】李雪主――金正恩氏の美貌の妻)言うまでもなく、北朝鮮においてもタクシーは許認可事業だ。金正恩氏が海外からの観光客誘致に力を入れてきたこともあり、タクシー利権は羨望の的となっているが、特別なコネがない限り手にすることはできない。特に高麗航空タクシー事業所は、平壌に複数あるタクシー会社の中で唯一、24時間営業を許可されているという。そのおかげで同社とKKGは、タクシー事業により日本円で毎日200万円ほども利益を上げているとされる。1年間で7億円以上にもなるビッグビジネスである。
ちなみに李雪主氏の一族がタクシー利権を握る前まで、この業界で幅を利かせていたのは張成沢(チャン・ソンテク)元国防副委員長の姪の夫であるチェ・ウンチョル氏だった。同氏は張氏が2013年に粛清・処刑された際に連座させられ、処刑されてしまったという。
(参考記事:「家族もろとも銃殺」「機関銃で粉々に」…残忍さを増す北朝鮮の粛清現場を衛星画像が確認)人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面
まさに、誰を味方に付けるかで運命が180度変わってしまう、北朝鮮権力中枢の「一寸先は闇」を象徴するエピソードと言える。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。