運転兵は軍にいる間も、仕えている指揮官から「特権のおすそわけ」にあずかることができる。何かとタバコや食料を分けてもらえる機会が多く、身だしなみに気を付けるよう求められるため、軍服も新品でカッコイイ。女性にもモテるのである。
その一方、落とし穴もある。指揮官が物資横流しなどで摘発されれば、運転兵にも累が及びかねない。そしていちばん怖いのが、金正恩党委員長の逆鱗に触れることだ。
2010年初め、黄海南道(ファンヘナムド)に駐屯する朝鮮人民軍(北朝鮮軍)第4軍団のある師団長の専用車が、軍総政治局の会議に参加するため平壌に向かっていた。中国製の新型SUVを与えられて上機嫌だった師団長は、運転兵に「飛ばせ」と命じ、前方のクルマを次々に追い越した。
しかし運悪く、その中に金正恩氏が運転するメルセデスベンツのS600があったのだ。