新義州の保衛局は、管轄区域で家族単位の脱北者が出ても、責任を取らされないように単純な行方不明事件として処理する。一方、粛川の保衛局は動揺のあまり、上部に報告。そのため、国レベルでの捜査になってしまったのだ。
こうなると、もし保衛局が2人を逮捕できなければ、同局の幹部は連帯責任でクビになり、処罰される可能性すらある。これが普通なら「正直者が馬鹿を見る」と見られるかもしれないが、保衛局は人権を無視した取り締まりだけでなく、拷問を駆使した恐喝ビジネスを行うなど、住民からの評判はすこぶる悪い。
(参考記事:口に砂利を詰め顔面を串刺し…金正恩「拷問部隊」の恐喝ビジネス)今回の失態で保衛省の要員が罰せられたとしても、同情する一般住民は誰一人いないだろう。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。