中国語ができないため、何ひとつコミュニケーションが取れないまま、食事を作ったり洗濯をしたりしていた。夫の姉には、八つ当たりで暴力を振るわれてきた。
河北省の農村に住む脱北女性は、カネが稼げるとブローカーに騙され、人身売買の被害に遭った。ところが、結婚させられた夫はすぐに当局に逮捕されてしまい、生きていくために、北朝鮮に残された家族に送金するために、売春をせざるを得ない状況に追い込まれた。
この女性は、より多くの客を取るために「整形手術を何回も受けさせられた」「儲かるので、客を相手に麻薬の密売をするケースもある」とも語っている。
(参考記事:コンドーム着用はゼロ…「売春」と「薬物」で破滅する北朝鮮の女性たち )こうした被害のなくならない大きな理由のひとつとして、中国当局が脱北者を摘発し、北朝鮮に強制送還している事実がある。脱北者は本国で収容所送りなどの厳罰を受けるのを恐れ、どんな人権侵害に遭っても誰にも保護を求められないのだ。
(参考記事:中国で「アダルトビデオチャット」を強いられる脱北女性たち)国際社会ではいま、核・ミサイル開発を巡り、中国が対北朝鮮制裁に本気で取り組むよう求める声が高まっているが、現在進行形で被害者の生み出されている脱北者問題についても、より多くの関心が集まることを望む。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。