死の寸前で助かった被告らが、感涙にむせび、「金正恩元帥様、万歳!」を叫んだのは言うまでもない。2013年にはほかにも、これと同様のことが何度も繰り返されたという。
つまりは「アメ」と「ムチ」を使い分けて人心を操る古典的な手法なわけだが、人の生死を簡単に決めることのできる独裁者に対し、国民は恐れを抱かずにはいられないだろう。
このような正恩氏が、国民に対する人権侵害を本気で反省することは今後も期待できそうにない。仮に、人権問題が改善する兆しが見えたとしても、それは正恩氏が自らの独裁権力を維持するのに必要な範囲で行われるだけだ。そして、正恩氏が独裁権力を握っている限り、北朝鮮の民主化はあり得ず、つまりは人権侵害が終わることもないのだ。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。