北朝鮮外務省の報道官(スポークスマン)は5日、米国のコリー・ガードナー上院議員が金正恩党委員長のことを冒とくしたとして、「身震いするほど後悔」させるなどと述べて反発した。
正恩氏の「ヘンな写真」
朝鮮中央通信によれば、報道官は「米国の政客の中に事物現象に対する初歩的な判断能力はもちろん、人間の体裁まで喪失したガードナーのような人間のくずが混じっているのは、米国の不幸だ」としながら、「ガードナーは、われわれの最高の尊厳をあえて侵害した妄動について身震いするほど後悔することになる」などと述べたという。
ここまで北朝鮮を怒らせたガードナー氏は、いったい何と言ったのか。
調べてみたところ、3日に放送された米NBCとのインタビューで、核兵器開発に執着する正恩氏について「変人」「頭がおかしい」といった趣旨の言葉で非難していた。
こうした発言に、北朝鮮側が敏感に反応した例はほかにもある。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面例えば3月22日、米上院軍事委員会のジョン・マケイン委員長は正恩氏を「気の触れたデブのガキ(crazy fat kid)」と呼んだ上で、「われわれはスターリンも相手にしなかった。スターリンは残忍だったが、ある程度理性はあった」「金正恩は全く理性的ではない」などと酷評。
これに対し北朝鮮外務省の報道官が「無慈悲で悲惨な鉄槌を下す」と応じたのだ。
こうした一連のやり取りを見ていて気になるのが、正恩氏はこのような自らに対する悪口を、直接見聞きしているのかどうかということだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面正恩氏が、北朝鮮のメディア戦略に直接関与しているのはまず間違いない。そうでなければ、朝鮮中央通信や主要紙が正恩氏の「ヘンな写真」を次々公開できるはずがない。
しかしそれにしては、米国議員の発言に対する北朝鮮側の反発ぶりが大人しい。正直、ガードナー氏やマケイン氏の言葉は、品位に欠けているとも思える。体形を揶揄した悪口などは、金正恩体制に虐げられ搾取されている北朝鮮国民が言うならまだ理解はできるのだが。
ともあれ、北朝鮮はオバマ前大統領に対しては、聞くに堪えないヘイトスピーチを繰り返していた。オバマ政権の要人は、ガードナー氏やマケイン氏のような罵詈雑言を口にしてはいなかったにもかかわらずだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面この違いは、どこから来るのか。
核武装を進展させたことから来る余裕なのか。あるいは、北朝鮮に強硬な姿勢を取り始めたトランプ政権下の米国に対する恐怖心の表れなのか。
筆者もまだ結論を出すには至っていないが、ともかく観察と分析の必要な要素であると言える。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。