金正恩体制の「虐待」から逃げ出す北朝鮮の女性たち

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北朝鮮から逃れて韓国入りした脱北者のうち、女性の割合が圧倒的に多くなっていることが、韓国の統一省の統計で明らかになった。なぜ、北朝鮮の女性らは、金正恩体制から離れていくのだろうか。

人身売買も

統一省によると、今年3月末までに韓国入りした脱北者の総数は30,490人だった。そのうち女性は21,672人で実に71%にも及ぶ。

過去の統計を見ると、2002年に韓国入りした脱北者1,142人のうち、女性は632人で55%、2003年は63%、2004年は67%、2005年が68%と増え続けていた。2016年に韓国入りした1,418人のうち、女性は1,119人で79%に達した。そして、今年1月から3月末までに韓国入りした278人のうち女性は232人と83%にも達した。

この数字の背景には、北朝鮮社会で女性が虐待とも言うべき被害を受けていることがある。北朝鮮は表向きは男女平等を謳っている。しかし、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)内では、セクハラや性的暴力が常態化し、権力者たちは「喜び組」に象徴されるように、女性を慰み者にするなどやりたい放題だ。この問題が深刻なのは、そもそも「人権」の概念すら教えられていない彼女らは、人権侵害に遭っても告発する言葉も手段もないことだ。

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北朝鮮から脱北しようと決意した女性らのほとんどは、まずは隣接する中国へ行かざるをえないが、いい暮らしができるとはかぎらない。中国国内では不法滞在者に過ぎないことから、裏社会の恰好の餌食となる。1990年代末、28歳のときに脱北したコ・ジウンさんは、自身が中国で2度にわたり人身売買の被害に遭った悲惨な体験を語っている。

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なかには農村に嫁いで、それなりの暮らしを送る女性もいる。それでも夫の稼ぎが少ないことから、ネット上で性的なポーズを見せるなどの「アダルトビデオチャット」に従事するケースもある。

わずかな希望をもって命がけで中国に行ったものの、そこは安住の地ではなかった。となると、韓国をめざすようになるのは、ごく自然な流れと言える。もちろん、韓国で必ずしも幸せな生活が待っているとはかぎらない。しかし、まずは韓国国民として身分が保障される。頑張ればそこそこの暮らしが可能で、チャンスがあれば成功も手に入れることができる。なによりも、北朝鮮と違い自由を満喫できる。

脱北者の中には、韓国ではなく日本を新たな生活の地に選ぶ人もいる。日本でコンビニエンスストアで働くある脱北女性は、次のような感想を述べた。

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「仕事は複雑で大変です。でも、働けば働いた分だけ給料をもらえる。北朝鮮にいた時は、なにかと理由をつけて天引きされて、残る給料はわずか。給料だけでなく残業代をもらえた時は新鮮な感じがしましたし、本当に感動しました」

脱北して中国に潜伏し、その後、韓国や第三国へ向かう過程で多くの女性らが悲惨な体験をしているが、彼女たちは懸命に生き延びている。その一方で、北朝鮮男性の多くは国内でもまともな給料がもらえない企業所(会社)に出勤する義務に縛られており、商売すらする余裕がない。そうして生活がひっ迫し、妻から三行半をつきつけられるケースも多い。

女性らの脱北の増加は、こうした家庭レベルでの現象を通り越して、もはや国家体制、すなわち金正恩体制が女性から三行半をつきつけられていることを物語っている。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記