米国のトランプ政権が朝鮮半島近海に空母打撃群を派遣し、核・ミサイル開発を続ける北朝鮮を圧迫していることを受けて、同国内の一部には様々な噂が流れている。
「悪い予感」
これを受け、北朝鮮駐在の外国公館の中にも、現地在住の自国民に注意を促す動きがあったようだ。
その外国公館とは、北朝鮮と最も緊密な関係にある中国の大使館である。
中国の在北朝鮮大使館が先月中旬、現地在住の華僑に対して中国への一時帰国を勧告していたことがわかった。しかし、勧告を受けて帰国した人はさほど多くなかったようだ。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
2、3ヶ月に1回のペースで北朝鮮と中国を行き来しているという平壌在住の華僑は、RFAの取材に、通常より1ヶ月早く中国へ出国したと述べた。先月20日ごろに中国大使館が「できる限り中国にいた方が良い」との勧告を出したことを受けてのことだという。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面「平壌に長年住んでいるが、中国大使館が一時帰国を勧告したことはなかった。それで悪い予感がして、急いで中国へ帰ってきた」(平壌在住の華僑)
一方でほとんどの華僑は「大したことはないだろう」と考え、帰国を選択してはいないという。その理由について、平壌にまったく緊張感がなく、普段と変わらぬ様子であるためだろうとしている。
華僑への締め付け
中朝国境地帯の中国側に住む北朝鮮出身の華僑もRFAに対し、大使館の勧告を聞いて中国に一時帰国した人はいるが、さほど多くはないと述べている。また、中国大使館が在北朝鮮華僑に対して命令や勧告を出すことはあまりなく、一時帰国の勧告は極めて異例であるとの指摘も、前出の華僑の証言と一致している。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面この北朝鮮出身の華僑は、「6回目の核実験が強行されるのではないか」「米国が先制攻撃するのではないか」との関係国メディアの報道を受けて、中国大使館が自国民保護のためにこのような勧告を出したようだとの見方を述べている。
ちなみに、北朝鮮にはかつておよそ2万人の華僑が在住していたが、北朝鮮当局の締め付け強化に伴って帰国する人が増え、現在では「5400人まで減っている」(丹東市政府関係者)とされる。
一方、中国政府は北朝鮮に協力し、国内にいる脱北者を摘発しては強制送還している。それでも、中国国内に潜伏する脱北者の数は、数万人から十万人以上とも言われている。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。