金正恩氏「極太ズボン」より茶髪に憧れる北朝鮮の若者たち

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昨日の本欄で、「チャンマダン(農民市場)世代」と呼ばれる1990年代半ば以降に生まれた北朝鮮の若者の意識が大いに変化していることを紹介した。意識の変化とともに、彼らの趣味趣向にも変化が起きている様子をデイリーNKの内部情報筋が伝えてきた。

正恩氏「俺のマネをするな!」

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の内部情報筋によると、古臭い北朝鮮式ヘアスタイルではなく、「資本主義風」のヘアスタイルが若い層で人気を集めている。清津(チョンジン)や会寧(フェリョン)の町中では、茶髪の若者が目につくというのだ。

韓国の聯合ニュースは、在日本朝鮮人総連合会の月刊誌「祖国(2014年8月号)」が、「若者の間で後頭部とサイドを高く刈り上げたヘアスタイルが流行している」と紹介した。このヘアスタイルこそ金正恩党委員長の特徴的な刈り上げスタイル、通称「覇気ヘア」だが、北朝鮮国内の写真や報道を見る限り、正恩氏ほどの極端な刈り上げスタイルが流行しているとは言いがたい。

覇気へアどころか、茶髪や前髪を長く垂らしたヘアスタイルで、スキニーパンツを履く若者が増えているのが、今の北朝鮮の実情だ。

スキニーパンツといえば、金正恩氏の服装は体型のためか、どうしてもに極太シルエットにならざるをえない。そして、側近の一人である崔龍海(チェ・リョンヘ)労働党副委員長が、最高指導者の権威にあやかろうとして、金正恩氏の極太ズボンを真似たことが正恩氏の逆鱗に触れたことがある。崔氏は公衆の面前で激しく叱責され、ズボンを履き替えさせられたというが、なんとも笑えない話だ。

女子大生を拷問

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北朝鮮当局は茶髪を「非社会主義行為」として取り締まりの対象としている。過去にも茶髪の若者は存在したが、取り締まられないかとビクビクしていたという。一方、それを見た他の若者は、茶髪に憧れながらも、怖くて髪を染めることはできなかった。

それでも、茶髪が流行するきっかけとなったのは、やはり韓流だろう。韓流ドラマに出てくる男子と女子の茶髪に憧れて韓流ファッションを真似たことは容易に想像できる。韓流は、北朝鮮庶民、とりわけ若者の美的感覚や流行の変化を促したのだ。

しかし、依然として韓流コンテンツは金正恩体制下では御法度だ。韓流ビデオファイルを保有していた容疑だけで女子大生が拷問されたケースもある。

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韓流ビデオほどではないが、茶髪でも運が悪ければ、労働鍛錬隊(軽犯罪者用の刑務所)送りにされかねない。そこで、若者は目立たない色に染めたり、帽子やスカーフをかぶって取り締まりを避けている。とはいえ、さすがに茶髪だけでこの世の地獄といわれる政治犯収容所送りになることはないようだ。

青年組織も取り締まりを行っているが、保安員ほど怖くないのか茶髪の若者は抵抗するという。「元々この色だ」と言い返す若者を見て、「最近の若者はわたしたちの世代とは違う」と情報筋は述べた。

以前なら「捕まりたいのか!さっさと黒に染め直せ!」と言っていた親も、今では「素敵だけど、あまり目立たないようにしなさい」とたしなめる。親の世代の考えも変わりつつあるようだ。別に国を裏切っているわけでもないのに、それぐらい本人の好きにさせたらいいという考えが広がっているというのだ。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記