金正恩氏の外見を遠慮なくけなし始めた北朝鮮の若者たち

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北朝鮮には、「チャンマダン(農民市場)世代」と呼ばれる人々がいる。概ね1990年代半ば以降に生まれた若者たちだ。

かつての北朝鮮では、国家が食べ物や日用品の配給を握り、それをもって国民を支配していた。しかし90年代の大飢饉「苦難の行軍」により配給システムが崩壊。半ばなし崩し的に市場での商売が解禁され、国民は本来なら禁じられているはずの私有財産を蓄えるようになった。

その流れの中で、人々は国家への依存から脱して自律性を強めてきたわけだが、とりわけ「以前の北朝鮮」を知らない若者たちは、年長の世代よりも強い自我を持っているとされる。彼らは国や社会のことよりも、個人の暮らしを大切にし、現状に対しては非常に批判的で、大人たちを慌てさせる場面も少なくない。

米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)によれば、最近中国を訪れた平壌在住の情報筋から、「最近の若者は大胆過ぎる」との言葉が聞かれたという。

若者は中高年層に比べると開放的で、批判精神にも富み、プライベートな場では金正恩党委員長や体制に対する批判も平気でする。もちろん、バレたら大変なことになる。政治犯収容所に送られるか、公開処刑になるかもしれない。

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もちろん、そのことは若者たちも知っている。そのため、誰かの発言が外に漏れて問題になると、仲間を売った密告者を探し出して徹底的に問い詰め、報復するという。具体的にどのように報復をするかについて情報筋は触れていないが、恐ろしくて二度と密告する気が起きないほどのことをされるようだ。

気になるのは、北朝鮮の若者たちの批判が、いまどこへ向いているかだ。情報筋が説明する。

「当局は、貧富の差がないのが社会主義で、貧富の差が激しい資本主義の国は人の住むところではないと宣伝している。それなのに、国内でも貧富の差が日に日に大きくなっている。これではわが国こそ、もはや資本主義国家ではないかと憤っているのだ」

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平安北道(ピョンアンブクト)の情報筋によると、金正恩氏を称える「足取り」(パルコルム)という歌に出てくる「金大将」という歌詞を「キム・トゥンボ」(トゥンボは太った人のことを指す)に変えて歌う若者もいるという。

当局は、こうした替え歌問題を深刻に受け止めているようで、国家保衛省は「替え歌禁止令」を出している。

平壌出身で現在は韓国に住んでいる脱北者のイさんは、今時の若者について次のように説明した。

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「北朝鮮の人々の中に、社会主義と資本主義の正確な概念を理解している人は多くない。外国からの情報に頻繁に接している若者たちは、庶民にとって暮らしにくいのは自分たちの国の方だと感じている。そのため、社会主義と資本主義の概念はさておいて、とにかく北朝鮮の体制がいけないのだと、ことあるごとに批判の声を上げるのだ」

その怒りが、金正恩体制をひっくり返すほどに強くなる日が待ち遠しい。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記