「日本政府が北朝鮮からの避難民対策を本格検討」というのは果たして本当か

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毎日新聞は28日、日本政府が「朝鮮半島有事が発生した場合、北朝鮮から大量の避難民が日本に流入する恐れがあるとして本格的な対策の検討に入った」と報じた。

それによると、北朝鮮からの避難民は最大数万人と想定されており、日本政府は「日本海側に数カ所、拠点となる港を選定。上陸時に身元や所持品を調べ、北朝鮮の工作員やテロリストの入国を防ぐ方針」だという。

凄惨な虐待

この件については、安倍晋三首相が17日の衆院決算行政監視委員会で「上陸の手続き、収容施設の設置、庇護(ひご)すべき者にあたるか否かのスクリーニング(選別)といった一連の対応を想定している」と説明していた。

より具体的には、「避難民は、日本人妻やその子孫など日本国籍者と日本にゆかりのある者▽難民条約の要件に該当する難民▽第三国に出国するための一時入国者▽工作員など入国が認められない者--などに選別し、対応を決める」(毎日新聞)のだという。

果たして日本政府は、本気でこのようなことを検討しているのだろうか。筆者には、とうてい信じることができない。

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政府が本気であるかどうかを知るための、簡単な方法がある。マスコミが関係省庁に対し、「数万人の避難民からヒアリングを行うための、朝鮮語(韓国語)の堪能な人材をどうやって集めるのか」と聞いてみれば良いのだ。

自衛隊であれ公安であれ他のどの部署であれ、日本政府にはごく少数の通訳専門家を除き、朝鮮語のできる人材はいない。外務省とて一部を除き例外ではなく、そもそも朝鮮語のできる人材は、朝鮮半島有事において本来の持ち場を離れること自体が難しいと思われる。

「在日コリアンを活用する手もあるではないか」との声もあろうが、今や母国語を操ることのできる在日韓国人は少数派だ。在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)では粘り強く母国語教育を続けているが、まさか北朝鮮の避難民と工作員を選別するのに、北朝鮮の出先機関に頼るわけにはいかない。

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そもそも、北朝鮮から数万人もの避難民が海を渡ってくるなど、あり得るのだろうか。脱北者の大多数は、中国を経由して第三国に逃れる。中国政府は北朝鮮に協力し、脱北者を捕まえては強制送還している。そうなれば、本国で凄惨な虐待が待っている。

それにも関わらず脱北する人々が中国ルートを選ぶのは、オンボロ船で日本海を渡ろうとすることがそれだけ危険だからだろう。

とはいえ、避難民が来る可能性がゼロではない以上、万が一の備えは必要だ。ということは、日本政府は今からでも、朝鮮語のできる人材を確保する方策を立てて置かねばならないということだ。

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それはつまり、ニューカマーの韓国人を国や自治体が大量に雇うことのできる法的ルールや採用の仕組みを整備したり、相当数の警察官や自衛隊員らに徹底した朝鮮語教育を行うための予算措置を取ったりするということだ。

北朝鮮があのような国である以上、いつ有事が訪れるか分からないのだから、こうした措置を取ることはムダではない。むしろ、今までどうしてやっていなかったのか不思議なくらいだ。

まさかとは思うが、朝鮮半島有事を懸念する国会でのやり取りやマスコミの報道がことごとく中身のない、「雰囲気」だけのものだったとしたら、そのような茶番こそが、日本の安全保障にとって最大のリスクと言えるかもしれない。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記