その後、パク氏は手当たり次第に商売を行った。わずかな利ザヤのために重い穀物を運ぶ仕事から、個人経営の金鉱山まで手を出したことのない仕事が思い浮かばないくらいだ。外で働いては18号収容所に戻り、収容所幹部にはワイロを、母には生活費を渡す生活が続いた。
だが次第に景気が悪くなり。生活を維持することが難しくなってきた。そんな時、国境沿いの両江道(リャンガンド)恵山(ヘサン)市で脱北ブローカーと偶然出会った。パクさんのみすぼらしい姿を見たブローカーはすぐに脱北を勧めた。
(参考記事:中国で「アダルトビデオチャット」を強いられる脱北女性たち)パクさんは18号収容所に戻り、母に「脱北」の意思を伝えた。母は涙ぐみながら「行きなさい」と背中を押してくれたという。そしてパクさんは青春時代を過ごした18号収容所を後にする。2009年9月のことだった。(続く)
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。