北朝鮮で、女性らがひどい人権侵害に遭ってきたことについては、本欄でもたびたび言及してきたが、最近になって当事者らの告発が相次いでいる。
凄まじい女性遍歴
17日には、米国・ニューヨークで「脱北難民女性:中国での困窮と人身売買」と題したシンポジウムが行われた。第61回「国連女性の地位委員会」公式の並行行事として開かれたもので、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の元下士官であるイ・ソヨン氏ら複数の脱北女性が参加。北朝鮮国内や中国で起きている人権侵害について証言した。
北朝鮮でこのような現象が起きるのは、そもそも人権の概念が通用しない体制である上に、儒教文化の悪い部分である男性本位がまかり通っているためだ。
その最たる体現者と言えるのが、故金正日総書記だったと言えるのではないか。同氏のあまりに凄まじい女性遍歴は、情報統制の厳しい北朝鮮においても、公然の秘密として囁かれているほどだ。
(参考記事:機関銃でズタズタに…金正日氏に「口封じ」で殺された美人女優の悲劇)中国にも矛先
しかし、このようなことがいつまでも見過ごされるほど、今の世の中は甘くない。正日氏の息子である金正恩党委員長が、外国の女性政治家たちに苦しめられているのも、因果応報と言える部分があるのではないか。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面韓国の朴槿恵前大統領は、最後にはスキャンダルによって引きずりおろされてしまったものの、2年ほど前には正恩氏に屈辱を味わわせている。非武装地帯での地雷爆発事件に端を発した軍事危機で、北朝鮮は韓国の軍事圧力に抗しきれず、謝罪を余儀なくされたのだ。
翌年、正恩氏が2回もの核実験に突き進んだ背景には、この経験があったのかもしれない。
また国連においては、北朝鮮の人権問題を重大視する米国のサマンサ・パワー前国連大使による攻撃にさらされた。結果的に正恩氏は「人道に対する罪」を問われかねない立場に追いやられ、国際社会に居場所を失ってしまったのだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面米大統領選でヒラリー・クリントン氏が当選していたら、パワー大使の路線はそのまま継承されただろう。しかし、勝ったのはドナルド・トランプ氏だった。人権軽視とも取れる同氏の言動を見て、正恩氏は少しホッとしたのではないか。
ところが、そうは問屋が卸さなかった。トランプ政権の国連大使となったニッキー・ヘイリー女史が、人権問題と取り組む姿勢を強力に打ち出しているのだ。
米政府系のボイス・オブ・アメリカ(VOA)によると、ヘイリー大使は29日、有力シンクタンクである外交評議会(CFR)での懇談会で次のように述べた。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面「北朝鮮は核開発の財源を得るため、政治犯を炭鉱に送り死ぬほど働かせている」
この発言は、国連安全保障理事会が人権を重要な問題として取り扱うべきと主張する中で出たものだ。同大使はこうも言っている。
「現実が示しているのは、平和と安全は人権とは別に達成することはできないということだ」
まさにその通りである。筆者としては、トランプ政権の要人が発した言葉の中で初めて歓迎できるものと言えるかもしれない。
安保理では、中国とロシアが「人権問題は安保理の性格にそぐわない」と主張し、北朝鮮における人権侵害が俎上に乗せられるのを阻止してきた。ヘイリー大使の言葉は、これらの国に向けられた部分も大きいだろうが、それもまた重要なことだ。なぜなら中国政府が北朝鮮に協力し、脱北者を強制送還していることが、北の人権状況を悪化させる要因のひとつになっているからだ。
いずれにせよ正恩氏は今頃、ヘイリー大使の言動が気になりだしているのではないか。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。