昨年4月、中国の北朝鮮レストランから脱出し、韓国入りした元女性従業員12人がこの春、大学生となり、新たな生活のスタートを切ったことがわかった。
聯合ニュースが26日、政府当局者の話として「全員が大学に特例入学したようだ」と伝えた。
もともと、韓国社会での「美人ウェイトレス」に対する関心は高い。中にはネットでアイドル並みの人気を博し、テレビで話題になったケースもある。
(参考記事:美貌の北朝鮮ウェイトレス、ネットで人気爆発)しつこい北朝鮮
韓国社会の脱北者事情に通じたジャーナリストが話す。
「12人はほとんどが平壌出身のようだ。これまで3万人の脱北者が韓国入りしているが、ほとんどが中朝国境に近いエリアから来ており、平壌出身者はごく少数だ。件の女性らは周囲に脱北経緯を明かしていないようだが、立ち居振る舞いを見れば『ああ、昨年4月の彼女たちなんだな』とわかる」
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面しかしだからこそ、韓国の情報当局や警察は、彼女たちの身辺保護に気を使っているようだ。すでに自由な生活を始めて久しいようだが「脱北の経緯を詮索する人物や、怪しい人物が近づかないよう、必要に応じて連絡を取り合っているようだ」(前出のジャーナリスト)。
韓国当局を懸念させているのは、北朝鮮がいまなお、彼女らは「韓国により拉致された」と主張していることだろう。北朝鮮はいま、韓国国内のエージェントやシンパを通じて、彼女たちとの接触を試みている可能性が高い。
接触し、あの手この手で説得あるいは脅迫し、平壌に連れ戻すことができれば大成果だ。連れ戻した女性をテレビに出演させ、「私は拉致された」と証言させることができれば、韓国のシンパによる当局批判を引き出すことができる。
順応に失敗の例も
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面このような北朝鮮側の試みを退けるうえで最も大事なのは、彼女らの新しい人生が実り多いものになることだ。生活が安定すれば、北朝鮮側からの誘いに乗ってしまう恐れも小さくなる。
ただ、脱北者の中には韓国社会への適応に失敗している人も多く、北朝鮮の誘いに負けてしまう人が毎年のように出ているのだ。そしてその責任の一端は、韓国社会の側にもある。
金正恩体制の核・ミサイルの暴走を止め、アジアに安定をもたらすためには、韓国社会が北朝鮮国民と真に融和し、助け合っていける未来が志向されなければならない。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面彼女たちが今後、どのような人生を送るかは、その試金石の一つになる可能性がある。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。