北朝鮮軍で女性兵士への「性的虐待」が横行する理由

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3月8日は、国連が定めた「国際女性デー」だった。北朝鮮では「国際婦女節」と呼ばれている。

日本の植民地支配から解放され、朝鮮民主主義人民共和国が建国される直前の1946年7月30日、北朝鮮臨時人民委員会は「朝鮮男女平等権法についての法令」を発表した。これには女性の選挙権、被選挙権の保障、強制結婚の反対、離婚の自由、養育費訴訟権の認定、一夫多妻制の否定などの内容が含まれている。

指揮官の「喜び組」

日本が男女雇用機会均等法を定めたのは1985年、韓国が男女雇用平等法を定めたのは1987年であったことと比べると、北朝鮮が法令面で、いかに女性の人権政策を先取りしていたかがわかる。

では、北朝鮮は女性にとって「天国」なのか。実態はまるで違う。

北朝鮮当局が法律の条文に美辞麗句を並べた裏には、ある目的が隠されていた。男性だけでは足りなかった労働力を、女性を動員することで埋めようとしたのだ。たとえそうであっても、女性が男性と同等の地位と機会を与えられていれば良いが、決してそうはなっていない。

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米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が両江道(リャンガンド)の内部情報筋の話として伝えたところでは、北朝鮮当局は2013年から、軍隊経験があるか大学を卒業した女性に限り、幹部への登用を認めるようになったという。大学に進学できるのが、ある程度は家庭環境に恵まれた子どもたちであることを考えれば、その他の少女たちは、ほぼ義務的に兵役に就かなければならない。

そして、軍隊という閉ざされた集団生活の中で、女性に対する人権侵害は加速する。

前出の情報筋はRFAに対し、朝鮮人民軍総政治局が2015年、各部隊の女性指揮官を集めて思想闘争会議を行った際の資料の中身について説明している。概要は、例えば次のとおりだ。

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316連隊3大隊のある中隊長は2014年9月、「性上納」を行った見返りに労働党に入党した。入党の保証人となった政治将校の要求に逆らえず関係を迫られ続けた結果、彼女の家庭は崩壊してしまったという。

出世と引き換えに女性軍人が性的暴行に遭う事例は数多く報告されている。しかし、「性的暴行」という言葉すらない北朝鮮で、女性たちは自分が受けた被害が人権侵害だと気づかずにいる。また、問題になっても、処罰されるのは女性の方だったりもする

一方、経済的困窮から売春行為を行う女性軍人もいる。

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2015年2月20日の午後11時、人民軍警務局が平安南道(ピョンアンナムド)の平城(ピョンソン)市駅前洞(ヨクチョンドン)一帯で集中的に取り締まりを行った結果、22人の売春女性を逮捕したが、うち17人が女性軍人だった。

こうした現象について、前出の情報筋は次のように解説している。

「女性軍人が、男性指揮官からの性的虐待から逃れようとするどころか、カネを稼ぐために夜ごと部隊を抜け出して売春行為を行うのは、後方総局(配給を担当する部署)が生理用ナプキンすら供給できないほどの劣悪な補給体制に原因がある」

北朝鮮の軍では男性兵士たちも、飢えに耐えかねて民間人からの収奪に走るなどしている。女性の場合はさらに状況が深刻なのかもしれない。

インフラや集合住宅の建設に投入される労働部隊「突撃隊」における女性の境遇も悲惨極まりない。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋によると、中隊長以上の突撃隊の指揮官が、「喜び組」と呼ばれる女性を連れて歩いていることは公然の秘密となっている。指揮官の「不当な要求」を断った女性は、最も危険かつ重労働を強いられる現場に追いやられるのだ。

「男女平等が宣言されて70年以上が経つが、わが国ほど女性の人権が蹂躙されている国も珍しいだろう。現状を改善するためには(監視の行き届かない)軍隊や突撃隊での集団生活に女性を加わらせることから止めるべきだ」

(参考記事:コンドーム着用はゼロ…「売春」と「薬物」で破滅する北朝鮮の女性たち

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記