金正恩氏の「怨念」がさく裂した北メディアの「朴槿恵退陣」報道

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朝鮮中央通信は10日、韓国憲法裁判所による朴槿恵大統領罷免(ひめん)の宣告を異例の速さで伝えた。

憲法裁判所の李貞美(イ・ジョンミ)所長代行はこの日、国会で決議された弾劾が妥当かどうかの決定言い渡しを午前11時に開始。間もなく罷免決定が明らかにされた。それから2時間余り後の午後1時半過ぎ、同通信は「ソウルからの報道によると」として、「弾劾を宣告した」と速報したのだ。

自分の「ヘンな写真」も

北朝鮮の国営メディアが、これほど短時間で韓国情勢を伝えるのは異例だ。普段なら翌日の報道でも速いくらいだ。

また、同通信は同じ記事で「(朴氏は)今後、一般犯罪者として本格的に捜査を受けるという」とも伝えた。

また、同通信や朝鮮労働党機関紙の労働新聞は一時、朴氏の退陣を求める韓国国民のデモを詳細に伝えていたが、これもまた異例と言えた。このようなニュースを流せば、言論の自由を奪われている北朝鮮国民に「民主主義とはなんと素晴らしいのか!」という感慨を抱かせてしまうからだ。

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それにもかかわらず、北朝鮮メディアが異例の報道を続けた背景には、まず間違いなく金正恩党委員長の個人的な感情がある。正恩氏は、自国メディアの報道内容について、かなり細かい内容まで直々に指示を与えていると思われる。そうでなければ、メディアが正恩氏の「ヘンな写真」を次々に公開できるはずがない。

「次期大統領」にも疑惑

そして、一連の「朴槿恵退陣」報道の裏にある正恩氏の感情は、「怨念」であると思われる。2015年夏、北朝鮮が仕掛けた地雷により韓国軍兵士が吹き飛ばされた事件をきっかけに、朝鮮半島では軍事危機が高まった。北朝鮮と韓国は、軍事行動による威嚇合戦に突入。結局、米韓軍に恐れをなした北朝鮮が「チキンレース」で敗れ、みっともなく謝罪させられる幕切れとなった。

正恩氏は、これが死ぬほど悔しかったと見られ、誹謗中傷を含む朴氏非難を強めてきたのだ。

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気になるのは、今後の北朝鮮と韓国の関係だ。近く行われる韓国大統領選では、野党「共に民主党」元代表の文在寅(ムン・ジェイン)氏の当選が有力と見られている。

実は朴氏の一連のスキャンダルが弾ける直前まで、政治生命の危機にさらされていたのはこの文氏の方だった。過去の国連における人権決議において北朝鮮と「内通」していたと暴露されていたのだ。

現在は朴氏のスキャンダルにかき消されているが、文氏が次期大統領になれば蒸し返される可能性は高い。そうなれば、本来は北朝鮮に融和的な文氏も、動きが取りづらくなるだろう。

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ちなみに北朝鮮当局は、自国メディアに「(文氏との)秘密のやり取りなどなかった」などと報道させ、文氏を擁護するような動きを見せている。しかし、核問題であれ拉致問題であれ最近の金正男氏事件であれ、ウソにウソを重ねてきた北朝鮮の主張をどれだけの人が信じるだろうか。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記