金正男氏の「殺害情報」を広める「情報通の奥様」たち

人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

北朝鮮の金正男(キム・ジョンナム)氏殺害事件のうわさが、口コミで北朝鮮国内に広がりつつあることはデイリーNKジャパンでも報じているが、それに加え、マレーシア駐在のカン・チョル北朝鮮大使が国外追放されたことも知れ渡りつつある。当局は懸命にうわさの拡散を抑えようとしている。

情報に飢えている北朝鮮国民の口コミの伝播力には恐るべきもので、最高幹部のスキャンダルや失敗した反政府活動の顛末、大規模事故の修羅場などが、海外にまで詳細に伝わってくるほどだ。

(参考記事:美貌の女性の歯を抜いて…崔龍海の極悪性スキャンダル

中国の情報筋によると、中朝国境地域の北朝鮮側では、当局が事件のうわさの拡散を防ぐため、監視と統制を強化し箝口令を敷いた。数日前まで金正男氏殺害事件のことを話していた北朝鮮の貿易関係者も急に黙り込み、何を聞いても「知らない」と言うようになったという。

また、新義州(シニジュ)や会寧(フェリョン)の貿易関係者に電話をしても、以前とは異なり国際情勢の話は一切持ち出されなくなった。新たな盗聴装置が導入されたようだと情報筋は述べた。

さらに、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)は、北朝鮮当局が、事件のうわさが広まらないように、2月中旬から中国に滞在する北朝鮮の貿易関係者の北朝鮮への帰国を許可していないと伝えた。

人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

しかし、帰国禁止令が徹底していなかったのか、実務に支障が出たため禁止令が解除されたのかは不明だが、現在では帰国できるようになったものと思われる。その結果、当局の恐れていた通りの状況となった。

平壌のデイリーNK内部情報筋によると、海外在住、または長期出張に行っていた複数の貿易関係者が帰国し、海外で聞いたニュースを家族や親戚に話したところ、驚くほどの勢いで拡散し始めたという。

最高指導者一家に関するうわさだけあって、下手なことを言うとどんな目に遭わされるかわからない。

人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

だから出張から家庭に戻ったお父さんたちは「ここだけの話」として身内だけに語って聞かせたはずだが、情報通でおしゃべり好きとして知られている貿易関係者の妻たちが黙っているわけがなかったのだ。

妻たちの話は市場での井戸端会議で次々と拡散し、遂には全国に広まってしまったという。

一方、北部の中朝国境地帯では、マレーシア駐在のカン・チョル北朝鮮大使が国外追放されたうわさも広がっている。

人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

平安北道のデイリーNK内部情報筋によると、市場では「元帥様(金正恩党委員長)の兄がマレーシアで死んだ、だれそれの仕業だ、マレーシアにいた幹部(カン・チョル大使)が追放された」という話が出回っており、大人はもちろん、幼い子供までが「マレーシア、マレーシア」と連呼するほどの状況になっている。ただし、追放されたカン・チョル大使の名前までは知れ渡っていないとのことだ。

北朝鮮の人々にとって「追放」という言葉は、大きな過ちを犯したために受ける罰という意味で受け止められる。詳細はわからなくても、「大使が追放された」ということは、北朝鮮が何か非常に大きな過ちを犯したと受け止められるだろうと情報筋は見ている。

先述の平壌の内部情報筋は「いくら厳しく統制しても、人の口に戸は立てられない」「想像を絶する事件だけあって、うわさはさらに広がるだろう」と述べている。

また、50代以上の平壌市民は、1990年代に金正男氏のことを「後継者様」や「ご子息」などと尊称をつけて呼んでいたことを覚えているとのことで、今回の事件は人々に相当なショックを与えている模様だ。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記