北朝鮮、外交官もネット接続禁止…金正男氏暗殺情報の拡散恐れ

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北朝鮮当局が、海外に派遣している外交官や労働者に対して、インターネットへの接続を禁じる指示を下したと米政府系のラジオ・フリー・アジアが報じた。マレーシアで起きた金正男(キム・ジョンナム)氏殺害事件の情報が拡散することを防ぐための措置と思われる。

喜び組スキャンダルで…

北朝鮮当局は、一部の機関や長期滞在の外国人を除いて、一般の国民がインターネットに接続することを原則として禁じている。その一方、中朝国境ではネットではなくSDカードやデジタルメディアを通じて、多くの海外情報が北朝鮮に流入している。こうした情報を持ち込むことも、広めることも違法だが、人々の「知りたい」という欲求は止められないようだ。

ただし、違法ゆえに理不尽な悲劇を生むことがある。一昨年には、金正日総書記の喜び組スキャンダルを描いたドラマの動画ファイルを販売した罪で女性3人が銃殺されるという事件が起きている。

(参考記事:銃殺の悲劇も…北朝鮮「喜び組」スキャンダル

こうした中、ウラジオストクの北朝鮮情報筋によると、現地の北朝鮮領事館が現地に派遣されている北朝鮮労働者を集合させて、次のような指示を伝えたという。

● 海外派遣労働者はもちろん、大使館、領事館の職員もインターネットへの接続を禁じる
● もしニュースを聞いたとしても他人に知らせるな
● 他人に知らせた者は、強制送還の上、厳罰に処す

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この指示に基づき、秘密警察である国家保衛省(旧国家安全保衛部)から派遣されている保衛指導員が、労働者に対してスマートフォンの抜き打ち検査を行っているという。

どうやら北朝鮮当局は、金正男氏殺害事件のニュースが国内に流入し拡散していることを警戒しているようだ。つまり、海外に派遣された労働者や外交官がネットを通じて知った金正男氏殺害事件のニュースを帰国して周辺の人に漏らし、そのニュースがさらに拡散することを恐れているのだ。客観的な報道を行うメディアが一つもない北朝鮮で、口コミがいかに強力であるかを物語るエピソードでもある。

北朝鮮当局は、ネットの接続禁止だけではなく、海外テレビの視聴も規制している。中国の北朝鮮情報筋によると、北朝鮮労働者が寝泊まりする中国企業の寮では、北朝鮮当局の強い要求で、北朝鮮の朝鮮中央テレビしか見られないようにテレビのチャンネルを固定しているとのことだ。

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ただし、このような情報統制には限界があるだろう。派遣された外交官や労働者が真っ先に購入するのがスマートフォンだ。値段は張るが、インターネットに接続できて最新ニュースを知ることができるからだ。当局がいくら統制しようと、彼らがあの手この手を使ってあらゆる情報にアクセスすることはさけられない。

先日、金正男氏の息子であるキム・ハンソル氏の動画がインターネット上で公開された。この情報も遠からず北朝鮮国内に流入し拡散するだろう。これがすぐさま金正恩体制を揺るがすような事態を招くとは考えづらい。それでも北朝鮮国民が海外情報を通じて、金正恩体制の非人道的な本質を知る大きなきっかけになることは間違いない。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記