韓国のドラマやバラエティには、グルメをテーマにしたものが非常に多い。その代表とも言えるのが、時代劇「宮廷女官チャングムの誓い」だが、それ以外にもMBCの「パスタ」、KBSの「製パン王 キム・タック」など、枚挙に暇がない。
このような傾向が、韓国ドラマを文字どおり「命がけ」で見ている北朝鮮の人々の食にも影響を与えている。
最近、北朝鮮で人気の韓流アイテムは「パン」だ。とりわけ人気なのがチョコマフィンなどだ。
北朝鮮では、市場、駅前、売店など街の至るところでパンが売られている。脱北者によると、出張に行くときや、畑に出るときに弁当にパンを入れるのが当たり前になってきているという。当局も、政治的行事に動員した人にパンやお菓子を配ることが多い。
そんな中で、幹部やトンジュ(金主、新興富裕層)の間から「韓流ドラマや映画、バラエティで見た韓国のパンが食べたい」という声が挙がっている。中でも人気アイテムはチョコマフィンやライ麦パンだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面北朝鮮貿易に携わる中国のデイリーNK内部情報筋によると、北朝鮮国内でも一部の百貨店や市場では、韓国で作られたパンが売られている。しかし、どこにでもあるわけではないので、貿易業者に頼んでわざわざソウルから取り寄せる人もいる。
韓国の仁川空港を午前に出発する中国の瀋陽空港行きの便に載せれば、翌日の夕方には平壌に到着するため、よほど足の早いパンでなければ問題ない。
「韓流パン」がブームになっていることをキャッチしたのだろうか、国営の金カップ体育人総合食品工場はライ麦パンの生産に乗り出した。平壌市内のスーパー、光復商業中心では、ライ麦パン1袋(5個入り)が1万9000北朝鮮ウォン(約247円)で売られている。これはコメ4キロに相当する額で、かなりの高級品だ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面しかし、幹部やトンジュは口にしようとしない。韓国のものでなければ嫌だというのだ。
韓国製のパンが北朝鮮でいくらで売られているかついては情報を入手できていないが、参考までに、韓国のチェーン店で売られているライ麦パンは1つ2000〜3000ウォン(約200〜300円)前後、専門店では8000ウォン(約800円)ほどだ。また、量販店ではチョコマフィンの12個入りが8000ウォンで売られている。
韓国製高級パンは、北朝鮮の庶民にとって縁遠いものだが、庶民なりの取っておきのパンがある。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面両江道(リャンガンド)の情報筋によると、恵山(ヘサン)の市場では、パンが1キロ6350北朝鮮ウォン(約83円)で売られている。コメより少し高いが、調理の必要がないことを考えると実質的には同じ値段だ。人気があるのは国営工場製ではなく、生地を十分に発酵させてから焼いて、香ばしいと評判の個人業者のパンだ。
大学の寮で毎日配られる大学生パンと呼ばれるものは1つ1000北朝鮮ウォン(約13円)と格安で、市場でも売られていて人気だという。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。