ねらわれた「英語の堪能な女子大生」…ワナに落ちる北朝鮮女性たち

人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

昨日に続き、中国で2度にわたり人身売買の被害に遭った脱北女性、コ・ジウンさんの証言に基づいて、この問題の実態について述べてみたい。

コさんが初めて脱北したのは、1997年のことだった。北朝鮮で「苦難の行軍」と呼ばれる、食糧難と大量餓死の時代である。少なくとも数十万人、一説には100万人以上が餓死したと言われるこの時期、コさんを含め中朝国境地帯に暮らしていた人々にとって、中国に逃れることは生き延びるための数少ない希望のひとつだった。

待ち受ける「生き地獄」

だからこの時期、脱北者の数は爆発的に増えた。また、死の一歩手前でさまよっているような人々は、生き延びるための対価として、貴重なものを差し出してしまう。そこには、自分の自由や尊厳、基本的人権までもが含まれてしまいがちなのだ。

このように立場の弱い人々をカネで売買したのが、中朝国境を股にかけた人身売買組織だったのだ。

(参考記事:「中国人の男は一列に並んだ私たちを選んだ」北朝鮮女性、人身売買被害の証言

では、北朝鮮の食糧事情が当時と比べ大幅に改善した今、人身売買の被害は減ったのか。「大幅に減った」とする説を、筆者も聞いたことがある。ただ、2度目の脱北後に中国で15年間暮らし、昨年になって韓国入りしたコさんは次のように証言している。

人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

「今後も、人身売買が簡単になくなるとは思えません。最近は、中国からすぐに韓国へやってくる脱北女性が多いので、人身売買が減ったように見えますが、実際にはそうではないのです。昨年、韓国へ来た脱北者から聞いた話では、勉強ができ英語も上手い北朝鮮の女子大生に、中国へ行って勉強をして、おカネも儲けてみてはとそそのかす人があったようです。それも人身売買を目的としたもので、本人にまったくその気はなくとも、騙されて売られてしまうわけです」

つまり、飢えに耐えかねて逃げ出してきた人々を待ち受けるのではなく、意図的にワナを仕掛け、北朝鮮女性を食い物にしている輩がいるというのだ。

中国当局が近年になって、このような人身売買組織の摘発を強めているという情報もある。それはしかし、被害者たちを保護するためではなく、北朝鮮に協力して脱北者を摘発・送還するために行っているものだ。送還されたら、脱北者には生き地獄のような日々が待っている。

人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

それが恐ろしくて、犯罪被害者となった脱北者たちは、泣き寝入りを強いられているのだ。

こうした被害を減らすのは、さほど難しいことではあるまい。中国が人道に基づいた取り締まりを行うだけで、中朝国境での人身売買は激減するだろう。

中国当局は、近代国家としての自らの責任を直視すべきだ。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記