デイリーNKジャパンは昨年12月、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)の報道を引用し、北朝鮮には大麻取締法がなく、大麻が堂々と販売されており、税関に止められることなく中国に持ち出されていると報じた。
このRFAの報道は多くのメディアが引用し、広く報じられた。
その中のひとつ、大麻の所持・使用が事実上合法化されている米ニューヨーク州の大麻専門ニュースサイト、グリーン・ラッシュ・デイリーは「混じりけだらけの安物の大麻が多くの旅行者を北朝鮮に惹きつけている」「全体主義国家は大麻パラダイスなのか」などと伝えている。英国のタブロイド紙も同様の報道をしている。
さらに、北朝鮮で大麻を吸った体験を語る外国人観光客もいる。
英国のライター、ダーモン・リクター氏は、2013年に北朝鮮北東部の羅先(ラソン)の市場で大麻を購入して使用したと、自身のブログで語っている。花穂も少なくてさほど強くなく、欧米で売られているものとは程遠いが、「効き目は明らかだった」とのことだ。 また、公の場で使っても誰にも止められることはなかったそうだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面金正恩党委員長が、国内の薬物汚染に頭を悩ませている状況下、こんなネタで外国の注目を集めるとは、ちょっとした珍現象と言える。
問題は「お国柄」
一方、米AP通信平壌支局長のエリック・タルマジ記者は、「北朝鮮大麻合法説」を否定する記事を書いている。
それによると、平壌駐在のスウェーデン大使、トルケル・スティールンロフ氏は「大麻を合法的に買えるということはない、使用は違法だろう」と述べている。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面また、平壌麻加工工場の女性案内員はAP通信の取材に「そんなものを吸う人はわが国にはいない。物を作るのに使うだけだ」と答えた。ちなみにこの女性は、米国メディアに語るには敏感な内容であるとして、匿名を要求した。国によっては麻が問題になりうることを認識している模様だ。
さらに、北朝鮮ツアーを開催しているヤングパイオニアツアーの代表で、頻繁に訪朝しているトロイ・コリングス氏は「あれは単なるヘンプだ」と一蹴する。つまり、同じ麻でも、規制成分が多く含まれているカンナビスではなく、ほとんど含まれていないヘンプだというのだ。
「見たことも買ったこともあるが、THC(テトラヒドロカンナビノール、大麻の有効成分)は含まれておらず、タバコの代用品として売られているだけだ。北部山間地に自生しており、地元の人は採取して、乾燥させたものを市場で売っている。どれだけ吸ってもハイにはならない」(コリングス氏)
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面実際、カンナビスにはTHCが2%から25%含まれているが、ヘンプは0.3%未満だ。日本に自生している麻も後者に含まれるが、かつては収穫時に「酔う」こともあったとの話がある。
タルマジ記者は、ヘンプは北朝鮮の至る所に生えているので、カンナビスと間違えたのだろう、タバコの代用品は平壌のあちこちで堂々と売られており、大量に吸えば気持ちよくなるかもしれないが、ニコチンの過剰摂取で頭痛を引き起こすだろうと結論づけている。
北朝鮮で大麻は合法だ、いや違うという主張は、この数年で何度も繰り返されている。より安全に、より安く大麻を使用したいという人々が多い証左であるとも言えよう。北朝鮮に大麻を違法とする明確な法規定がないのは事実だが、法治主義とは言い難い司法制度のもとでは、どんなことでも処罰されうることを忘れてはいけない。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。