金正恩氏「血と恐怖のシナリオ」第二幕が開いた

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北朝鮮の金正恩党委員長を支え権力の頂点に君臨してきた支配階層のなかで異変が生じつつある。建国の父である金日成主席の時代から仕えてきた大物政治家の息子が不自然な形で解任されたというのだ。

「高射銃」で人間をミンチに

金正恩氏は独裁体制を構築するために、多数の幹部を粛清・処刑してきた。たとえ朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の高級幹部であろうと、時には人間をミンチと化する残忍な処刑方法で、恐怖心を植え付け、体制固めを行ってきた。

こうした中、比較的安泰だったのが抗日パルチザンの血筋だった。

北朝鮮は社会主義体制を標榜しているが、実体は金日成氏を始祖とする「王朝国家」だ。その金王朝を支える一大勢力が日成氏とともに抗日パルチザン闘争を繰り広げ、建国後も政権を支えた人脈、抗日パルチザンの血筋である。いわば北朝鮮の「赤い貴族」たち。

抗日パルチザンの第1世代は、金日成・正日氏に仕えた。金正恩氏は第2世代、そして第3世代が支えていくと見られていた。その第2世代を代表する人物が崔龍海(チェ・リョンヘ)氏だ。金日成氏の盟友でもあった崔賢(チェ・ヒョン)氏の息子ということもあり、正日・正恩氏に仕えてきたが、この人物、北朝鮮国内での評判はすこぶる悪い。

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北朝鮮一のブランド好きで派手な生活を好むタイプと知られ、度重なる不正事件を引き起こした。それだけでなく、権力を盾にして美貌の芸能関係の女性を性の玩具にするなどのスキャンダラスな醜聞に濡れたことすらある。

(参考記事:美貌の女性の歯を抜いて…崔龍海の極悪性スキャンダル

それでも崔龍海氏は、抗日パルチザンの血筋ということから、金正恩体制下でしぶとく生き残ってきた。その一方で、北朝鮮では知らない者がいない第1世代の超大物の息子たちが解任されたというのだ。

韓国の大手紙・朝鮮日報系のTV朝鮮によると、防衛相にあたる人民武力部長(現人民武力相)も務めた呉振宇(オ・ジヌ)氏の息子三人が2015年以後、全員就いていた地位から解任されたというのだ。

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呉振宇氏は、1933年から金日成氏とパルチザン活動を繰り広げ、長らく金日成・正日氏に仕えてきた。1995年に死亡するまでの19年間も人民武力部長を務めた。

彼の息子である呉日勲(オ・イルン)氏は朝鮮労働党統一戦線部、イルス氏は貿易省、そして日晶(イルチョン)氏は、朝鮮人民軍の高位幹部職の一つである党軍事部長をそれぞれ務めていた。

とりわけ、呉日晶氏は2015年には金正恩氏の公開活動に動向する回数も増え、崔龍海氏とともに抗日パルチザン第2世代として金正恩体制を支えていくと見られていた。しかし、昨年8月には失脚説が出ていた。

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呉三兄弟の解任に関して、韓国政府関係者は「三兄弟は降格とかではなく、現職から完全に退いたと聞いている」とTV朝鮮に語ったという。一人だけならまだしも、三人とも退いたとすらなら極めて不自然であり、なんからの罪に問われて粛清された可能性が高い。金正恩氏が振り回す粛清の刃がついに抗日パルチザンの血筋にも及びつつあるのかもしれない。

一昨年11月、朝鮮労働党の機関紙である労働新聞は社説で次のように強調した。

革命の信念は自然に遺伝されるものではない。信念を捨てた人間は、かつての社会的地位があったとしても、歴史のゴミとして捨てられるのが革命闘争の教訓だ。

2015年11月2日付労働新聞社説「死んでも革命信念を捨てずにいよう」より

建国以来、代を次いで金王朝を支えてきた赤い貴族たちの命運も金正恩体制では一寸先は闇のようだ。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記