徹底的に奪われる少女たち…北朝鮮版「女工哀歌」の現場

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旧暦の正月(今年は1月28日)を祝う朝鮮半島では、1月下旬の数日間が祭日となった。しかし、北朝鮮の一部の工場労働者たちは、中国企業への納期を守るため、普段にも増して過酷な労働を強いられたようだ。

平安北道(ピョンアンブクト)に住むデイリーNKの内部情報筋によれば、「カツラとツケマツゲを中国企業に収めている貿易会社は、この時期にも納期を守ることを優先すべく生産現場にハッパをかけており、それはそのまま女学生の工員たちにシワ寄せされている。彼女らはほとんど食事を取る間もなく働かされている」という。

売春で身を亡ぼす

この情報筋によれば、北朝鮮の貿易会社がカツラ・ツケマツゲの製造および輸出に乗り出したのは2010年頃から。中国から原材料を仕入れ、加工して送り返す委託加工方式と見られる。こうした情報は以前から筆者の耳にも届いており、製品の一部(あるいは相当数)は中国から日本へ輸出されているとも聞く。

「工場に雇われているのは、視力がよく手先の器用な10代の女子中高生たち。経済的に苦しい家庭の子どもたちです。作業場にはろくな照明がないので、視力はどんどん悪くなる。加熱の必要な工程では、安全設備もないまま真っ赤に燃える石炭の熱を使うから、火傷が日常茶飯事だと聞きます」(情報筋)

経済の実質的な資本主義化の中、北朝鮮でも都市と地方間の格差、所得格差の拡大が進行している。貧困層の、とくに女性たちの窮状は甚だしく、少なくない人々が売春に走り身を亡ぼす。

(参考記事:コンドーム着用はゼロ…「売春」と「薬物」で破滅する北朝鮮の女性たち

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工場に職を得た少女たちも、いくら頑張っても報われない例が多いようだ。

「工場側の労務管理は非常に巧みです。たとえば、工員たちに『ツケマツゲひとつ当たり、0.05米ドル(5セント)を支給する』と伝える。それが高いのか安いのかわからない少女らは、とにかく数をこなそうと必死で働くのです。また、旧正月などの祭日に際しては、普段は後日まとめ払いの賃金を日払いに切り替える。収入は変わらないのに、少しでも早くおカネを家に持ち帰りたい彼女たちは、文句も言えず労働に精を出すのです。地域によっては、9歳の子どもまでが工場で働いていると聞きます」(同)

こんな生活のために学業はおろそかにならざるをえず、競争社会化する世の中を生き抜くのに必要な知識や教養も身につかない。少女たちは、徹底的な搾取に遭っているのだ。

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アメリカ人監督ミカ・X・ペレドの『女工哀歌』は中国のアパレル工場の実態を追ったドキュメンタリー映画だが、それより遥かに悲しい実態であると思える。

それにしても、ついこの間までは、まがりなりにも社会主義を標榜していた国だというのに、権力を持つ側の「悪徳資本家」への変わり身の、何という早さか。

ちなみに北朝鮮の労働法では、16歳未満の労働は禁じられている。このような現実が野放しであること自体が、金正恩党委員長の無能を物語っていると言えよう。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記