金正恩体制に頑強に抵抗する北朝鮮の「不良少年」たち

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昨年末から年始にかけて、北朝鮮当局がコチェビ(ストリートチルドレン)の一斉取り締まりを行った模様だ。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)によれば、市場や路上で物乞いや盗みを働くコチェビを、労働者糾察隊が手当たり次第に捕まえていたという。

強姦や虐待

しかし、コチェビたちは収容施設に入れられることに頑強に抵抗。庶民の関心を集めたとのことだ。咸鏡北道に住む内部情報筋が語る。

「コチェビたちは糾察隊に捕まっても、収容施設には絶対に行きたくないと、地面に倒れ手足をバタつかせて抵抗していた。金正恩は孤児施設の育児園や愛育園、中等学院を各道に建設し、子どもたちへの愛情をアピールしてきた。しかし当のコチェビたちは、施設に入るぐらいなら厳寒の路上で震えた方がマシだと考えている」

厳冬期の北朝鮮、それも北部ともなれば最低気温がマイナス15度を軽く下回り、とくに寒い日にはマイナス30度に迫ることもある。それならば、規律に縛られるのは煩わしくとも、施設に入っていた方が良さそうにも思える。コチェビたちはなぜ、それを拒むのか。前出とは別の内部情報筋が語る。

「わが国の孤児施設は、育児園や愛育園の状態もひどいものだが、より年長の子どもたちが入る中等学院の状態は目に余るのです。運営担当者たちが食料から燃料からあらゆるものを横流しするので、子どもたちは栄養失調と寒さで生命の危機にさらされている」

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さらには、子どもたちへの虐待も横行している。社会奉仕の名の下に各種の労働を強要し、幹部たちはその上にあぐらをかいているというのだ。以前、中等学院の少女十数人が教師により強姦され、問題になったことがあったが、虐待の形態はそれだけにとどまらない。

アウトローの反抗

今回のコチェビ取り締まりも、施設の収容児童数を増やすことで、増配される物資を横流ししてさらに私腹を肥やそうとの悪だくみが背景にあるのではないか――庶民らは、そのような疑念を募らせているという。

しかし、大人たちにも増して体制の理不尽さを増しているのは、当の少年少女たちではないのか。言うまでもなく、北朝鮮でコチェビが生き抜くのは容易なことではない。生きるためには必然、反権力的にならざるを得ないのだ。

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北朝鮮にも、昔から「アウトロー」はいる。いくら思想統制を強めても、人間の心の奥底で芽生える反抗心を根絶やしにはできないのだ。

(参考記事:【実録 北朝鮮ヤクザの世界】28歳で頂点に立った伝説の男

筆者は、そのような子どもたちが大人になり、金正恩体制と向き合う姿を想像せずにはいられない。無論、そのような状況が生まれること自体、簡単なことではないだろう。しかし、海外からの情報流入によって北朝鮮の人々の意識は変わり続けており、普通の家庭で育った子どもたちも、今までとは違った大人になる可能性がある。

北朝鮮を大きく変化させる、主人公たちの登場に期待したい。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記