北朝鮮国民が「死の恐怖」に震える金正恩氏の「悪ノリ」

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北朝鮮の金正恩党委員長が平壌市内の「黎明(リョミョン)通り」の建設現場を視察し、今年の故金日成主席の生誕記念日(4月15日、太陽節)までに建設を終えるよう指示したと、朝鮮中央通信など北朝鮮メディアが26日に報じている。

川原の地獄絵図

平壌では2015年11月に高層マンションや商業施設、金策工業総合大自動化研究所などが立ち並ぶ「未来科学者通り」が完成しており、黎明通りはそれに続く大規模開発の第2弾だ。

建設現場を訪れた正恩氏は、工事に動員された軍人と労働者たちの前で次のように述べて激励したという。

「われわれの前途をあくまでも阻んでみようとする敵のヒステリックな軍事的圧殺策動と経済制裁の中で行う黎明通りの建設は、単に通りの形成ではなく、社会主義と帝国主義との対決戦であり、社会主義防衛戦だ」

つまり黎明通りは、核・ミサイル開発に対する国連安全保障理事会による経済制裁が、打撃になっていないことを誇示するために建設されているということだ。ただ、昨年8月に発生した大水害や制裁の影響で工事が計画通りに進まず、正恩氏が当初指示した「2016年末までの完工」から、工期が大きくズレ込んでいたのだ。

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そこで今回、改めて4月までの完成目標が提示されたわけだが、建設に当たる軍人や労働者たちは戦慄していることだろう。

北朝鮮では、独裁者がいったん提示した「目標」は、何が何でも達成されなければならない。出来なければ責任者たちは処罰されかねず、それに対する恐怖心が、無理な工期設定となって現場にしわ寄せされる。

このように、北朝鮮では昔から、金日成・正日親子の誕生日など政治的な節目となる日に成果として発表するため、無理やり工期を短縮する突貫工事「速度戦」が繰り返されてきた。

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そのため工事は手抜きにならざるを得ず、事故が多発している。平壌では23階建てのマンションが崩壊する事故が発生。高速道路の工事現場では、橋が崩落し500人が死亡する事故が起きた。後に韓国へ逃れた目撃者たちの証言によれば、この崩落事故で川原には原形をとどめない死体が散乱し、現場は救助の看護師たちが気を失うほどの地獄絵図と化したという。

(参考記事:北朝鮮、橋崩壊で「500人死亡」現場の地獄絵図

経済制裁により国際社会から遮断されている北朝鮮経済は、大規模な都市開発によって大きく成長するような状況にはない。大多数の国民にとってみれば、正恩氏の「悪ノリ」で資源が浪費される「巨大なムダ」に過ぎないのだ。

そんなものにつき合わされ、命まで危険にさらされるのだから、たまったものではない。正恩氏が「社会主義と帝国主義の対決戦」で勝利を望めば望むほど、民心が離反し、国力が弱まるという皮肉な悪循環が働いているのである。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記