北朝鮮軍の兵士の心の支えは「恋のからさわぎ」

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北朝鮮は、平壌などの大都市を除き、娯楽が極めて乏しい国だ。気軽に利用できるレジャー施設があるわけでもなく、国営の朝鮮中央テレビはプロパガンダ一色でつまらない。民間でこの有様なのだから、軍隊ともなればなおのことだ。

見たら銃殺も

朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の部隊の多くは、人里離れたところに位置しており、娯楽など全く期待できない。だが、世界最長の11年の兵役を、何の娯楽もなしに過ごせるわけがない。

実は、僻地の「地の利」を生かした娯楽が存在するのだ。「韓国のテレビを見ること」である。詳細を米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

少し前に中国を訪れた平安南道(ピョンアンナムド)の情報筋は、息子から「軍隊にいたころ、韓国のテレビが辛い生活の慰めになっていた」と聞いたと述べた。海岸線一帯には無数の小さな部隊があることを考えると、韓国のテレビにハマっている北朝鮮軍兵士の数は、相当数にのぼると思われる。

兵士たちは、どのような環境で韓国のテレビを見ているのだろうか。

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それにはいくつかの条件があり、まず、電波の届きやすい海岸部でなければならない。また、取り締まりの手が届きにくい、大隊や中隊の本部から遠く離れたところでなければならない。そして、部隊に配属された人員が少なくなければならない。

韓国のテレビを見たことが発覚すれば重罪は免れない。気心の知れた仲間と共に韓国のテレビを見て「共犯関係」になることで、発覚のリスクを下げるのだ。

ここまで条件が揃っても、肝心の電気がなければテレビは見られない。そこで登場するのが自転車型発電機だ。

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黄海南道(ファンヘナムド)の龍淵(リョンヨン)郡で、軍隊に勤務した経験を持つ脱北者のリさんによると、韓国のテレビを見るためには、12ボルトのソーラーパネルが必要になる。晴れの日は問題ないが、曇りや雨の日には、新入りの兵士が自転車型発電機のペダルを必死に漕いで、電気を確保するのだ。途中でテレビの電源が落ちようものなら、上官にこっぴどく叱られるという。

リさんは、脱北美女が出演する番組も見たと証言した。おそらく、かつて日本テレビ系列で放送されていた『恋のから騒ぎ』の脱北美女版とも言える『いま会いに行きます』や、『南男北女』などのバラエティ番組と思われるが、これらは韓国のケーブルテレビ放送局であるチャンネルAが放送しているものだ。つまり、北朝鮮向けの特別なチャンネルが存在することを意味している。

韓国では2012年末をもってアナログ地上波テレビの放送が終了しているが、同国政府はそれ以降も、北朝鮮に向けたアナログ波の送信を続けている。送信出力は不明だが、ソウルから300キロも離れた、平安北道(ピョンアンブクト)の博川(パクチョン)や雲山(ウンサン)の軍部隊でも、韓国のテレビを見ているとの証言があることから、非常に強力な出力で電波を送り続けているものと思われる。

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すでに述べた通り、北朝鮮では韓国のテレビ番組をはじめ、海外の映像エンタテインメントの大部分について視聴が禁止されている。見たことがバレれば、銃殺を含む重罪に問われる。

それほど、海外エンタメが国民の心理に及ぼす影響を恐れているということだが、すでに国家を守る軍隊までが浸食されているのだ。しかし、兵士たちを海外エンタメから引き離すのは意外と簡単かも知れない。より面白い娯楽を与えてやればよいのだ。

それも出来ないようなら、金正恩党委員長は早晩、自らの独裁権力を失うことになるのではないだろうか。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記