金正恩氏「最愛の妹」が最高権力に君臨する日

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昨年7月に韓国に亡命したテ・ヨンホ元駐英北朝鮮公使は19日、韓国紙・世界日報とのインタビューで、北朝鮮の金正恩党委員長の妹である金与正(キム・ヨジョン)氏を兄に次ぐ第2の人物と見ることには「無理がある」との見解を示した。

正恩氏には与正氏のほかに、2人の兄がいる。しかし、異母兄の正男(ジョンナム)氏は父の故金正日総書記によって、権力から遠ざけられて久しい。また、正恩氏の実の兄である正哲(ジョンチョル)氏は性格や健康上の問題などから、政治とは無関係に暮らしているとされる。

友人が大量失踪

一方、与正氏は朝鮮労働党中央委員会の宣伝扇動部副部長の要職についているとされる。宣伝扇動部は北朝鮮国民に対する思想統制を担う重要部署であり、党中央委の副部長は、日本で言えば中央省庁の次官クラスに当たる高級官僚だ。そのため与正氏については韓国の一部識者の間で、「正恩氏の身に何か起きた場合の後継者候補」「正恩氏の側近であり、重要な仕事を仕切っているのではないか」などの見方が語られてきた。

テ氏の見解はこれを否定するものであるわけだが、その根拠は何か。同氏は次のように語っている。

「宣伝扇動部の幹部や職員は、北朝鮮でもいちばん頭の切れる人々であり、ちょっとやそっとの知識があるだけでは彼らを指導するのは難しい。(与正氏は)まだ、政策の方向性を示したり、政策的な判断を下したりできる水準にはないと思う」

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与正氏がまだ20代の若さであることを踏まえれば、確かに、テ氏の見解は自然なものであるとの印象を受ける。また、与正氏が兄の視察などに頻繁に同行していることについて同氏は、「まだ若いので、メディアの注目を集めたかったのではないか」と述べている。

つまりは「目立ちたがり屋さん」であるということだ。正恩氏も、自分のヘンな写真までを次々公開するほど目立ちたがりだが、この兄にしてこの妹あり、といったところか。

とはいえ、与正氏が北朝鮮において、特別な存在であることに変わりはない。日本の大阪にルーツがある正恩氏に対しては、北朝鮮幹部らも陰で「ニセモノ説」を囁いていると言われる。

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正恩氏が本当に心を許せるのは、血を分け合った兄妹しかいないのである。それに、正恩氏の健康不安説が取り沙汰される現状においては、「もしものとき」の後継者候補が暗黙の内に求められるのは、むしろ必然と言えよう。

以前は正恩氏に随行するたび、その明るい笑顔が公式メディアで紹介されていた与正氏も、国際社会による制裁指定の動向を警戒したのか、その動静が隠されるようになっている。

かつて、学生時代の友人らが些細な言動のために「大量失踪」した際には、ショックを受け深く傷ついたとされる与正氏。

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しかし彼女もいずれは、そうした素朴な横顔を完全に捨て、北朝鮮の最高権力の一員として君臨する日がくるかもしれない。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記