とんでもない冬休みの「宿題」に頭を抱える北朝鮮の中学生たち

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冬休みは、どこの国の子どもにとっても楽しいはずだ。北朝鮮でも、1月中旬から1ヶ月または1ヶ月半の長い冬休みに入る。しかし、子どもたちは浮かない顔をしている。とんでもない冬休みの宿題が出されたからだ。咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

仁渓(インゲ)高級中学校など会寧(フェリョン)市内の一部学校では「冬休みの課題として」というものが生徒らに提示された。生徒1人あたり中国人民元で50元から100元(約825円〜1650円)を上納せよというのだ。コメに換算すると13キロから26キロ分に相当するかなりの額だ。その名目は「パソコン購入費用」だ。

金正恩氏は、「教育事業に対する国家的投資を増やして教育の現代化を実現し中等一般の教育水準を決定的に高め世界的水準の才能ある科学技術人材をさらに多く育てなければならない」と述べ、教育の情報化、現代化政策を推し進めている。

しかし、中央から学校に対して一切の予算補助はない。いくら無茶振りだと言っても、金正恩氏の指示に従わなければ、最悪の場合、政治犯扱いされ収容所送りになりかねない。

そこで、学校の教師は、生徒たちにその責任をまた無茶振りするのだ。

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情報筋によると、農村地域の生徒たちは、上納金を集めるために、毎朝山に木を切りに行ったり、親と一緒に市場に行って商売を手伝ったりしている。家で勉強に集中できるのは、経済的に余裕のある家の子どもだけだ。

課題をこなせなかったら、皆の前に立たされて「思想闘争」「忠誠の誓約」をさせられ、提出日を再度決められる。達成できなければ、学校生活において様々な不利益が生じる。だから自分の子どもがそんなことにならないよう、親もカネ集めに苦心する。

ようやく上納したカネも、全額が教育に使われるのではなく、一部は教師の懐に入っている。

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教師は、最高級品のパソコンを買うと言ってカネを集めるが、実際には中古のパソコンを買い、差額を横領するのだ。金正恩氏の指示も実行でき、収入も得られる一石二鳥というわけだ。もちろん、そうでもしなければ生きていけないほど、学校からもらえる給料が少ないという背景もあるのだが。

また、いくら学校にパソコンが導入されたとしても、電力事情が悪く、そもそも電源を入れることすらかなわないことが多い。

さらに言うと、教科書や制服といった本来なら学校から無料で支給されるはずのものは、すべて市場で買わざるを得ない状況となっている。

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それなのに、見栄えのするパソコンを教室に並べることで、「元帥様(金正恩氏)の人民愛の現れ」というプロパガンダに利用するのである。

教科にも問題がある。北朝鮮の教育の柱は政治・思想教育だ。しかし、公立学校で「偉大なる首領様の幼年期」「朝鮮革命史」をいくら学んでも、市場経済化が進む北朝鮮ではまったく役に立たない。そのため、親たちは少しでも余裕があれば、子どもに家庭教師を付けて、「学校では教えてくれないこと」を学ばせるのだ。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記