金正恩氏、銃殺前に身の毛もよだつ「見せしめ」演出を指示か

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北朝鮮の金正恩党委員長が、公の場で地方の党幹部を「見せしめ」にしながら銃殺を指示したという衝撃的な情報が伝わってきた。

処刑前の動画を公開

金正恩氏は今年1月1日、その年の施策方針を示す「新年の辞」で自己批判らしき物言いで殊勝な一面を見せた。一方この裏には、自身が率先して自責しながら幹部の自己批判を誘導し、大々的な粛清と世代交代を推進していくという狡猾な狙いが込められていると韓国の情報機関傘下のシンクタンクは分析する。

いずれにせよ、金正恩氏は北朝鮮の最高指導者に就任してからの5年間で、高級幹部や一般住民340人を公開銃殺または粛清しながら統制を強化してきた。そう簡単に恐怖政治をやめるとは思えない。

なによりも、昨年末に金正恩氏は今後もより恐怖政治を強化させていく姿勢を見せていた。

両江道(リャンガンド)のデイリーNKの内部情報筋によると、両江道の党勤労団体部長が、些細な失言をきっかけに銃殺されてしまったという。この役職は、道内の職業総同盟、朝鮮社会主義女性同盟、金日成・金正日主義青年同盟などの外郭機関や、幼稚園や愛育院(孤児院)を管理する。

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彼が銃殺されたいきさつはこうだ。昨年11月末、金正恩氏は道内の三池淵(サムジヨン)郡を訪問した。その際に寄った学生少年宮殿で、地元の子どもたちの歌を鑑賞した。その後、正恩氏は歌ったある子どもに歩み寄り「君の歌は非常に上手だ」と賞賛した。

金正恩氏が去った後、部長は子どもに「君の歌が上手だから褒められたのではない。下手なのに優しい元帥様(金正恩氏)が人民を愛する心で褒めてくださったのだ」と言葉をかけた。彼としては「元帥様の人民愛」を強調したかったのだ。

しかしこの言葉が歪曲されて伝わり、子どもの親が「元帥様が直々に『上手だ』と褒めてくださったのに、それを部長ごときがひっくり返すのか」と激怒。親は、部長の言葉を朝鮮労働党の中枢機関である組織指導部や秘密警察である国家安全保衛部(現国家保衛省)に報告した。さらに、組織指導部は労働党中央に「1号報告」(金正恩氏に関連する事案の報告)として知らせた。

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この過程で、実績をあげられていなかった秘密警察が、事実を捻じ曲げて上部に報告した可能性があると情報筋は指摘する。結果的に、部長の言葉は金正恩氏の言葉を否定したという形になり、最高尊厳の権威を毀損したという罪に問われ、逮捕されることとなる。

情報筋は言及していないが、泣く子も黙る拷問部隊である国家安全保衛部が摘発に絡んでいただけに、激しい拷問が加えられたことは想像に難くない。しかし、彼に対する残酷な仕打ちはこれだけで終わらなかった。

昨年末に平壌で開催された第1回全党初級党委員長大会の閉会式の場で、身の毛もよだつ演出が行われたのだ。部長は縄を腰に結ばれた状態で人々の前に引きずり出され、跪かされた。連行される際には、立たせてもらえず跪いた状態だった。そして、金正恩氏は次のような指示を出したという。

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「このような者を葬る場所は、この地にはない」

部長は、連行後に某所で銃殺されたという。盛大に行われる大会という公の場で金正恩氏が直々に事実上の死刑宣告を下すとはにわかに信じ難い話だ。しかし、彼ならやりかねないという気もする。

金正恩氏は一昨年、スッポン養殖工場の視察中に激怒し、支配人を銃殺させた。北朝鮮メディアは、そのときの様子を動画で公開している。それを見ると、正恩氏の前でこわばった表情で直立不動の姿勢を取る職員たちや、泣き顔のような表情をする老幹部らしき人物が映っている。まさに「見せしめ」以外のなにものでもなかった。

(参考記事:【動画】金正恩氏、スッポン工場で「処刑前」の現地指導】

今回、銃殺された部長は本来、初級党委員長大会に参加するクラスの人物ではなかったというが、あえてこのような演出を通して、参加者に恐怖心を植え付ける狙いがあったと見られる。大会の参加者は情報筋に、「部長の姿を見た参加者は、ヒヤヒヤして何も言えなかった」と伝えた。

金正恩氏は、これまでどちらかといえば指導層を中心に統制を強めてきたが、今回漏れ伝わってきた無慈悲な演出は、地方や一般庶民にも恐怖政治を強めるという宣言なのかもしれない。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記