金正恩氏が誕生日を明かせない理由は日本にあった

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金正恩党委員長の生誕記念である1月8日が、今年も祝日として制定されなかった。自尊心が強く派手なイベントが好きな金正恩氏が、誕生日を祝日に設定できない最大の理由は日本にかかわることだった。

金正恩氏、ロッドマンと大はしゃぎ

北朝鮮国営メディアの朝鮮中央通信は昨年10月、「白頭山偉人称賛大会国際準備委員会」がアピール文で「来年1月、金正恩閣下の誕生日を盛大に慶祝(後略)」と報じており、今年は誕生日が祝われるのではないかとの見方が出ていた。そもそも金正恩氏の誕生日が1月8日であることは周知の事実だ。

金正恩氏の「マブダチ」を自称する米プロバスケットボールNBAの元スター選手であるデニス・ロッドマン氏は2014年、正恩氏の誕生日に合わせて訪朝。1月8日にはバスケットボールのエキビジョンマッチを開き、さらにサプライズらしき演出で正恩氏を大喜びさせた。

この様子は朝鮮中央テレビでも放映され、翌日の労働新聞の1面にも掲載された。ロッドマンの訪朝は謎多き金正恩氏のプライベートの一面を知る点で大いに役立った。一方、ロッドマン一行を接待するパーティーでは、名門学院から女学生たちがコンパニオンとして動員された。乱痴気騒ぎに付き合わされた彼女たちは陰で泣いていたという。

(参考記事:北朝鮮「秘密パーティーのコンパニオン」に動員される女学生たちの涙

もはや誰もが知る金正恩氏の誕生日が祝日に設定されない理由は、彼の出自に公に出来ない秘密があるからだ。その秘密とは実母である高ヨンヒ氏の存在だ。

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金日成氏の母親・康盤石(カン・バンソク)氏や金正日氏の母親・金正淑(キム・ジョンスク)氏の誕生日は、それぞれ4月21日と12月24日だ。祝日ではないが二人の生誕記念日にちなんで、なんらかの記念行事が行われたり、国営メディアで言及されることが多い。

しかし、高ヨンヒ氏に関しては誕生日どころかその存在すら明らかにされていない。彼女が元在日朝鮮人の帰国者だからだ。金正恩体制は、三代世襲を正当化するために、金日成氏を始祖とする抗日パルチザン一族の「白頭の血統」を継いでいかなければならないと主張している。そこに、抗日パルチザンの敵である日本生まれの元在日朝鮮人の血が混じることなどあってはならないことなのだ。

実に選民思想的で、かつ差別・排他的な発想だが、これが金正恩体制のアイデンティティーなのだ。

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金正恩氏の誕生日を祝日として設定し、盛大に祝うのなら高ヨンヒ氏の存在を明らかにしないと極めて不自然である。一方、偶像化を進めるには金日成・正日氏と同じく金正恩氏の誕生日を祝わなければならないーーこうしたジレンマを抱えながら、金正恩氏はいつ誕生日を祝日にするか頭を悩ませているのだろう。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記